菅義偉首相が日本学術会議から推薦された新会員候補6人の任命を拒否した。この問題を巡り、政府や自民党からは、学術会議の機能や体質などへの疑問が出され、学術会議のあり方そのものを問題視する声が上がっている。これは明らかな論理のすり替えであり、看過できない。
任命拒否とあり方は全く違う問題だ。事の重大さ、深刻さが違いすぎる。あり方に関しては学術会議固有の問題であり、よりよい態勢にしていく不断の努力は必要だろう。それについては別途議論すればいい。しかし、任命拒否は強権的な菅政権の本質を示す根本的な問題であり、菅政権が目指す「統制国家」の縮図だ。
安倍政権以降、自分たちに逆らうものを遠ざけ、自分の言うことを聞くものを優遇する傾向が強まってきた。任命拒否もこの流れのなかで捉える必要がある。
安倍政権では、安倍晋三前首相に近い人物らをNHK経営委員に起用する人事を国会で承認させたほか、NHK会長人事にも官邸の意向を反映させたとされる。また、集団的自衛権の一部行使を容認した安保関連法を巡っては、法案に前向きな小松一郎駐仏大使(当時)を内閣法制局長官に起用する異例の人事を敢行。さらに「官邸の守護神」と呼ばれた黒川弘務・元東京高検検事長を法解釈の変更をしてまで定年を延長させている(後に黒川氏は賭けマージャン問題で辞任)。
これらの人事介入に菅首相は官房長官として関わってきた。メディア、行政機関、司法と手をつけていき、そして今度は学問の世界までコントロールしようというものだ。
任命拒否は暗黙の圧力
任命を拒否された6人の論文を丸一日かけて読むなどして共通点を探したが、安保関連法や特定秘密保護法、共謀罪(改正組織犯罪処罰法)、沖縄県の米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設など複数の件で反対の声を上げていたり、公聴会で反対意見を述べたりしたこと以外に見当たらなかった。
推薦通り任命された99人の中にも、安保関連法案反対に署名した方が10人ほどいらっしゃるが、多くの憲法学者がサインする中に名を連ねているだけ。拒否された6人の方は複数の件での反対や公の場での発言など目立つ存在だったといえ、外形的に見れば「またもや、政府に逆らった人を飛ばした」としか思えない。まさしく政権による暗黙の圧力だ。
しかも、菅首相は任命拒否の理由を明らかにしていない。6人の主義主張が理由でないとしつつ、「総合的かつ俯瞰(ふかん)的に判断した結果」「個々人の任命の理由は答えを差し控える」などと繰り返している。このままでは6人に人格的な問題があると思われ、名誉を傷つけてしまうだろう。また、当事者である学術会議側にも理由を説明していないため、学術会議は今後、どのように推薦者を決めたらいいかも分から…
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