アフリカン・ライフ

リアル北斗の拳? 鉄道略奪・ケーブル盗の素顔 後編

平野光芳・ヨハネスブルク支局長
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鉄道施設の略奪を続ける男が取材に応じた。自宅にはケーブルが無造作にぶら下がっていた=南アフリカ・ヨハネスブルクで2020年10月28日、平野光芳撮影
鉄道施設の略奪を続ける男が取材に応じた。自宅にはケーブルが無造作にぶら下がっていた=南アフリカ・ヨハネスブルクで2020年10月28日、平野光芳撮影

 ロックダウン(都市封鎖)の影響で、当初予定から半年遅れで10月に南アフリカに赴任した私は着任早々、狙っていた取材を始めた。ロックダウンで運休となった鉄道の施設で、略奪が起きているという現場に向かったのだ。治安の悪さで世界トップクラスのこの国において、慣れない現地での車の運転、自分が襲われないかという不安、さらに略奪の現場に遭遇するという緊張の連続だった。それでも、毎日新聞で長年助手を務めてくれている人気俳優・ケレのサポートもあって、上々のスタートを切った。<前編>

ケーブル盗にインタビューを敢行

 朝、目が覚めると布団の中に入ったまま自分の原稿をどうするか、あれこれ思索するのが私の習慣だ。頭の中で原稿の大枠ができるまで、パソコンには向かわない。この日も、取材した要素でどんな原稿が書けるか考えたが、「まだ何か足りない」との思いが拭えなかった。

 経験上、このままでも記事にすることは可能だ。ただ、現場を歩いてコメントや写真を集めたという表層的な取材にとどまっており、はっきり言って身の安全さえ気をつければ誰でもできる内容だ。プロの記者としてもう一つ見せ場を作れないか、という欲が湧いてきた。

 ケレに電話を掛けて相談すると、腹案があると言う。知人の知り合いに、ケーブル盗に関わっているとうわさされている人物がいるらしい。ケレは「知人を通じてインタビューを申し込んでみる」と請け合った。

 ケレの奔走により、男とはその翌日に会えることになった。夜中に「仕事」があるので昼前まで寝ているといい、午前11時に自宅を訪問する段取りとなった。

 驚いたことに、男の自宅はケレの家から数百メートルしか離れていなかった。前編でも触れたように、ケレは旧黒人居留区のソウェト地区に住んでいるが、ケレの家の周囲はきちんと区画された中に一戸建てが並ぶ、比較的落ち着いたエリアである。犯罪者との距離の「近さ」に、ここは南アフリカなのだと改めて感じた。

 玄関先に白いプラスチック製の椅子を3個並べ、私とケレ、男が三角になって向き合った。ヨハネスブルクは春うららで、カラッと晴れて青空が美しい。「何でも聞いてくれ」。50代後半の黒人の男は、椅子に座ると悪びれる様子もなく切り出した。

 「なぜケーブルを盗むのか。コロナで生活が厳しくなったからか?」と私は尋ねた。南アフリカでも新型コロナウイルスの影響で経済活動が停滞している。多くの失業者が生まれて、日々の食事に事欠く人も少なくない。そんな人たちがやむにやまれず犯罪に手を染めるようになった、というなら少しは同情できる筋書きになり、男もあまり罪の意識を感じず、スムーズに話ができるのではないかという思惑だった。

 ところが男は、そんな配慮は無用だとばかりに「政治家が悪いからだ」と答えた。「政治家は腐敗していて、いろいろな不正をしてカネをもうけている。自分たちもこういう形で収入を得ているだけ」と語気を強めた。

 南アフリカで汚職が深刻なのは事実だ。2018年まで2期9年務めたズマ大統領は、インド系富豪との癒着が報じられるなどして辞職に追い込まれた。さらに近郊電車を運行…

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平野光芳

ヨハネスブルク支局長

2001年入社。大津支局、福井支局敦賀駐在、大阪社会部、ジャカルタ特派員、奈良支局などを経て20年からヨハネスブルク支局長。共著に「なぜ金正男は暗殺されたのか」