北朝鮮はバイデン新政権をどう見ているか

坂井隆・北朝鮮問題研究家
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米国のジョー・バイデン前副大統領=AP
米国のジョー・バイデン前副大統領=AP

 米大統領選の結果を受け、北朝鮮はトランプ政権との交渉を事実上終結させ、新たに発足するバイデン政権と向き合うことになる。北朝鮮はバイデン政権をどのように認識し、いかに対応しようとしているのだろうか。

米側の「非核化」の内実を探る

 北朝鮮の今後の対米戦略を占うために、これまでのトランプ政権との「非核化」交渉の結果について、北朝鮮の立場から見た得失ないし教訓を考えてみたい。

 最大の成果は、超大国である米国と交渉を展開し、金正恩朝鮮労働党委員長の威信を内外に発揚したことだろう。また、シンガポールでの米朝共同宣言は、両国の関係正常化及び相互の信頼関係醸成を通じた非核化の実現などを盛り込み、北朝鮮にとって満足すべきものだった。さらに、米韓合同軍事訓練の実施は大幅に抑制され、国連決議により禁止されていたミサイル発射についても、短距離のものに関しては、事実上の「黙認」を得ることができた。一方、そのコストは核実験場の廃止程度にとどまる。

 しかし、交渉は最終的な合意に至らず、米国との関係正常化という最終目的はもとより、国連制裁などの緩和を引き出すこともできなかった。その原因について、北朝鮮は、米国側がボルトン氏に代表される保守強硬派に押されて、北朝鮮の「非核化」に関し一方的かつ過大な要求を最後まで撤回しなかったためとみなしているとみられる。

 北朝鮮がこうした経緯を踏まえるとすれば、対米交渉自体には相当の魅力を感じつつも、米政権内部における「非核化」の概念がいかなるものであるかがその可否を判断する重要なポイントになるだろう。

交渉による関係改善を追求か

 北朝鮮のバイデン政権に対する認識に影響を与える材料としては、悲観的なものと楽観的なものの両方をあげることができる。

 悲観論の根拠としては、バイデン氏が昨年11月、同氏がトランプ大統領の対北朝鮮姿勢を批判する中で金委員長を「虐殺者」と称し(北朝鮮報道機関もこれに応えて同氏を「狂犬」と非難)、本年10月のトランプ大統領との討論会でも、金委員長を「悪党」(thug)呼ばわりしたことなどをあげることができる。このほか、与党・民主党に人権問題重視の傾向が強いとされていることも不安材料となる。

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坂井隆

北朝鮮問題研究家

1951年生まれ。78年公安調査庁入庁、北朝鮮関係の情報分析などに従事、本庁調査第二部長を最後に2012年退官。その後も朝鮮人民軍内部資料の分析など北朝鮮研究を継続。共編著書に「独裁国家・北朝鮮の実像」(2017年、朝日新聞出版)、「資料 北朝鮮研究Ⅰ 政治・思想」(1998年、慶応義塾大学出版会)など