アフリカン・ライフ

南アフリカのケーブル盗に起きた悲劇

平野光芳・ヨハネスブルク支局長
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取材に応じた際のケーブル盗の男=南アフリカ・ヨハネスブルクで2020年10月
取材に応じた際のケーブル盗の男=南アフリカ・ヨハネスブルクで2020年10月

朝一番の電話

 12月2日午前7時過ぎ、ヨハネスブルクの支局兼自宅でのんびり朝食をとっていると、携帯電話が鳴った。画面を見ると、本業は俳優で、非常勤の支局助手を務めるケレ(59)からだ。南アフリカの朝は早く、オフィスは午前8時始業のところが多い。それにしても早過ぎるので、何事かと身構えて電話を取った。

 ケレがもたらしたのはやはり良いニュースではなかった。10月下旬にインタビューした鉄道のケーブル盗の身に思わぬ事態が起きたという。

 ケーブル盗を取材したいきさつは「リアル北斗の拳? 鉄道略奪で見えた南アフリカの素顔」<前編><後編>に書いたが、少しだけ振り返っておきたい。

 南アフリカでは新型コロナウイルス対策で行ったロックダウン(都市封鎖)で、2020年3~6月、大都市近郊の通勤電車の運行を全面的に停止した。ところが電線に電流が流れず、警備も手薄になったのをよいことに、電線や信号ケーブル、駅の施設などが転売目的で略奪される被害が相次いだ。そのためロックダウンの規制が緩和された現在でも、多くの路線で電車の運行が再開できずにいる。

 私は10月にヨハネスブルクに赴任した直後、ケレとともに略奪の現場を訪れた。さらに実際に略奪に携わっている人の話が聞けないかと考え、ケレの尽力もあって50代後半の男にたどり着いた。男の自宅で1時間弱、インタビューした際には、略奪の手口を詳細に証言したほか、「政治家は腐敗していて、いろいろな不正をしてカネをもうけている。自分たちもこういう形で収入を得ているだけ」などと犯罪を正当化する身勝手な主張を繰り返し話した。

ショット・デッド

 ケレとは普段、英語でやり取りする。電話口の向こうでケレは10月に私たちがインタビューした男が、「ショット・デッド」だという。つまり射殺されたということだ。普通に日本で暮らしていれば、知り合いが銃で殺されることなどまずありえない。私はあまりに唐突な情報で頭が混乱したが、男が前日夜、自宅で何者かに襲撃され、そのまま息を引き取ったことが何とかのみ込めた。

 電話で話していて真っ先に頭に浮かんだのが、彼の死が私たちの取材に起因していないかという懸念だ。彼…

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平野光芳

ヨハネスブルク支局長

2001年入社。大津支局、福井支局敦賀駐在、大阪社会部、ジャカルタ特派員、奈良支局などを経て20年からヨハネスブルク支局長。共著に「なぜ金正男は暗殺されたのか」