
年末年始は受験生にとって正念場だ。新型コロナウイルスが流行するこの冬は、塾や予備校のオンライン授業を聴くためにパソコン画面にくぎ付けという人も多いに違いない。教える側も教わる側も大変な冬がやって来た。
ベルリン特派員をしていた2011~15年、よく「伝説の教師」の話をドイツ人から聞いた。といっても約200年前に世を去った人物である。ヨハン・ゲオルク・アウグスト・ガレッティ(1750~1828年)という歴史の教師で、ドイツ東部ゴータのギムナジウム(日本の中高一貫校に相当)の教壇に立ち、想像を絶する失言を繰り返した。その言い間違いが地元で話題となり、後にそれをまとめた本が出た。
私はドイツで原書を買い求めた。失言が一つずつ箇条書きで記されていて読みやすい。でも電車の中では笑いをこらえるのに苦労したのを覚えている。タイトルは「Das groesste Insekt ist der Elefant」(世界最大の昆虫はゾウである)という約120ページの本で、日本でもドイツ文学者の池内紀氏の編訳で白水社から翻訳書が出ている。
原書の序文には「生徒たちがうらやましい」と書かれているが、読み進めるうちに確かにそんな気持ちになる。どれほど笑いの絶えない授業だったのだろう。
だが受験生はこんな本を読んではいけない。先生の発言は間違いだらけどころか時に意味不明。危険である。
今回の時空旅行では、18世紀から19世紀にかけてドイツを笑いの渦に包んだ名物先生の失言録を紹介したい。
「英国女王は常に女性である」
以下、ガレッティ先生の失言、言い間違い、思わず笑ってしまう言葉の数々を原書からランダムに紹介したい(一部は語句を補っている)。内容は神話や歴史学、さらに地理学や物理学、生物学と多岐にわたる。
「ギリシャ神話では、人類はただ1人を除いて大洪水にのまれた。その1人とはデウカリオンと妻のピュラである」
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篠田航一
ロンドン支局長
1997年入社。甲府支局、東京社会部、ベルリン特派員、青森支局次長、カイロ特派員などを経て現職。著書に「ナチスの財宝」(講談社現代新書)、「ヒトラーとUFO~謎と都市伝説の国ドイツ」(平凡社新書)、「盗まれたエジプト文明~ナイル5000年の墓泥棒」(文春新書)。共著に「独仏『原発』二つの選択」(筑摩選書)。