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中国・大物TV司会者を巡るセクハラ訴訟から見えるもの

米村耕一・中国総局長
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国営中国中央テレビ(CCTV)の人気男性司会者によるセクシュアルハラスメント訴訟が開かれた裁判所の前では支援者らが「#MeToo」などと書かれたプラカードを掲げた=北京で2020年12月2日、AP
国営中国中央テレビ(CCTV)の人気男性司会者によるセクシュアルハラスメント訴訟が開かれた裁判所の前では支援者らが「#MeToo」などと書かれたプラカードを掲げた=北京で2020年12月2日、AP

 北京市海淀区の裁判所で昨年12月2日、国営の中国中央テレビ(CCTV)の人気男性司会者による女性実習生へのセクシュアルハラスメントを巡る訴訟の2度目の審理が行われた。初審理から2年ぶりの再開だった。裁判所前では、「セクハラを許すな」などのプラカードを持った約100人の支援者が集まり、インターネット上でも女性を中心に実習生への支持は広がる。

 一方、今年1月に入り司会者側も「事件」発生以来の沈黙を破ってインターネット上で潔白を訴え、「反撃」に出た。ネット上でも議論が活発化しているが、司会者を支持する見方には中国のナショナリズムをあおる論理も見え隠れし、米国発のセクハラ撲滅運動「#MeToo」に影響を受けた国際的な流れと、正面からぶつかる様相を呈している。

注目が集まる理由

 審理が行われた2日、支援者らは入れ替わりながらも10時間あまり裁判所の外に立ち続けていた。私の取材に応じてくれた訴訟当事者の元実習生で、現在は脚本家の弦子(シェンズ、インターネット上の通称)さん(27)は、裁判所の中からガラス越しにそうした姿を見て、「流れが変わってきている」と勇気づけられたという。2年前の初審理の際には、支援者の姿はほとんどなかったからだ。

 「裁判所の中にいても『必ず正義を』などと叫んでくれている声が聞こえた。本当に感動した」。ただ、一方で「もし私が裁判に負けたら、みんなが落胆し、勇気を失うのではないか」との不安も募ったという。結局この日、判決は出なかった。

 この裁判が注目を集めるのは、訴訟のもう一方の当事者である朱軍氏(56)が、日本で言えば紅白歌合戦に当たる旧暦大みそかの高視聴率番組「春晩」の司会を最近まで約20年続けた「超」がつく有名人だからだ。

 国営メディアの大物に対して、さまざまな妨害を乗り越えて声を上げ続けた弦子さんの姿を中国の主流メディアはほとんど報じない。しかし、インターネット媒体やSNSを通じて共感は広がり、香港の英字紙サウス・チャイナ・モーニングポスト紙は「2020年、中国を大きく変えた女性9人」の一人に弦子さんを選んだ。

事件の舞台は出演者控室

 そもそも問題となったのは、どんなセクハラだったのか。

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米村耕一

中国総局長

1998年入社。政治部、中国総局(北京)、ソウル支局長、外信部副部長などを経て、2020年6月から中国総局長。著書に「北朝鮮・絶対秘密文書 体制を脅かす『悪党』たち」。