世界時空旅行

まさかそんな生き物が… 中東にうごめく「動物兵器」の実態とは

篠田航一・外信部記者
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中東・北アフリカの狭い路地で荷物運びに活躍するロバ。シリアやアフガニスタンでは「兵器」としても使われた=モロッコ・フェズで2018年7月7日、篠田航一撮影
中東・北アフリカの狭い路地で荷物運びに活躍するロバ。シリアやアフガニスタンでは「兵器」としても使われた=モロッコ・フェズで2018年7月7日、篠田航一撮影

 紛争の絶えない中東では、軍事・スパイ作戦に関する真偽不明の情報が常に飛び交っている。そんな中、よく現地メディアをにぎわせているのが動物を使った作戦だ。私は2017年から20年までカイロ特派員として中東を担当していたが、取材するうちに「本当にそんなことがあるのか」と半信半疑になる事例も結構あった。

 実態はどうなのか。今回は、過去に中東で話題になった「動物兵器」の内情を追ってみたい。

ロバに爆弾を装着

 その話を聞いたのは、エジプトの首都カイロ近郊ギザ県にある建物の一室だった。

 「数年前の話ですが」と前置きして、かつてエジプトの過激派「イスラム集団」に所属して収監された経験を持つマヘル・ファルガリ氏は話し始めた。

 「治安当局に拘束された1人のイスラエル人がいました。取り調べを受けた理由が面白いのです。動物の腹に盗聴器を付けて、スパイ行為をした容疑でした。現場はエジプトのシナイ半島です。ウマやヒツジを使っていたということでした」

 ファルガリ氏は出所後、逆にテロ組織や過激派を研究する専門家となり、欧州でも講演をするなどエジプト国内では知られた人物だ。私はカイロ支局在任中、ファルガリ氏の分析を度々聞きに行った。そんな取材の中でたまたま「動物がスパイ作戦に使われたことがある」という話が出てきたのだ。

 最初は耳を疑った。ウマやヒツジに盗聴器を付けて敵の陣営に送り込み、内情を探る。そんな方法が成功するのか。高性能機器を駆使した作戦が当たり前の時代、にわかには信じがたかったが、専門家に聞くと「軍事のプロほど、まさかそんな原始的な手法で、と思われる作戦も軽視しない」という。

 実は私にも忘れられない体験がある。17年12月、内戦が続くシリアに入国した時のことだ。首都ダマスカス南郊のスベイナ地区を取材中、シリア軍の現地司令官から注意を受けた。

 「検問所近くを歩くロバやウシには絶対に近付かないように」

 私が訪れた地区は、特に過激派組織「イスラム国」(IS)などの武装勢力とシリア軍の戦闘が激しかった場所だった。建物の屋根は崩れ落ち、商店のシャッターには直径1~2センチの銃弾の痕が残っていた。廃虚の建物に入ると、破壊された天井部分から垂れ下がった鉄骨が揺れていて、今にも落ちてきそうだったのを覚えている。

 「シリア軍は13年にこの地区を奪還しましたが、まだIS残党は潜伏しています。最近は、一般市民を装ったテロリストがロバに爆発物を載せてテロを起こしました」。司令官はそう説明した。

 中東などの紛争地では、動物がこのように「殺人兵器」として時に機能してしまう実態がある。アフガニスタンでも13年4月、背中に爆弾を装着したロバが警察署の近くを通り、その瞬間に遠隔操作で爆発が起きて警官らが死傷するテロがあった。旧支配勢力タリバンの犯行とみられているが、同様のテロは度々起きている。

 なぜロバが…

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篠田航一

外信部記者

 1973年東京都生まれ。97年入社。甲府支局、東京社会部、ベルリン特派員、青森支局次長、カイロ特派員などを経て現職。著書に「ナチスの財宝」(講談社現代新書)、「ヒトラーとUFO~謎と都市伝説の国ドイツ」(平凡社新書)、「盗まれたエジプト文明~ナイル5000年の墓泥棒」(文春新書)。共著に「独仏『原発』二つの選択」(筑摩選書)。