韓流パラダイム

日本が勝訴しても、慰安婦問題が解決しない訳

堀山明子・外信部デスク
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日本政府に対する第2次慰安婦訴訟に勝訴後、記者団に囲まれる原告代理人の金江苑(キム・ガンウォン)さん=ソウル中央地裁で2021年1月8日、金宣希撮影
日本政府に対する第2次慰安婦訴訟に勝訴後、記者団に囲まれる原告代理人の金江苑(キム・ガンウォン)さん=ソウル中央地裁で2021年1月8日、金宣希撮影

 「正直困惑している」と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に言わしめた判決が1月8日、ソウル中央地裁で下され、その後、確定した。元慰安婦ら12人が日本政府に損害賠償を求めた訴訟で、原告の請求通り1人あたり1億ウォン(約940万円)の支払いを命じた判決だ。

 日本政府は基金や財団を通じて元慰安婦に一時金を支払う事業を過去2度にわたって行い、外交的解決を試みてきた。にもかかわらず地裁が賠償を命じた事態を受け、「もはや国際司法裁判所(ICJ)に提訴するしかない」との声が自民党内では高まっているという。ただ、今回の判決を取材してみて、ICJで日本が勝っても、慰安婦問題は解決しないと思うようになった。立ち止まって問題の本質を考えたい。

文大統領、「被害者を説得」に初めて言及

 文氏の困惑発言は判決から10日過ぎた1月18日の新年記者会見で、私の質問に対する答えの中で出てきた。会見は、内外信の記者20人が会見場に集まったほか、記者100人がオンラインでつながり、台本なしに文氏が指名する形式で実施された。会場にいた唯一の日本人だった私を、外交安保分野に関する2番目の質問者として、米CNN記者の次に指さした。恐らく日本人の質問に答える覚悟をしていたのだろう。

 私は質問を慰安婦問題に絞った。(1)過去に日本政府がとってきた慰安婦問題解決のための外交努力は今も有効と考えるか(2)外交努力があっても、判決に基づき日本政府は賠償を支払うべきだと考えるか(3)日本政府の謝罪と一時金を受け入れた被害者と反対する被害者に分かれており、韓国内のコンセンサスづくりが課題だが、大統領としてどうまとめるか――という内容だった。会見はテレビ中継されていたこともあり、私は(1)の日本政府の外交努力についての経緯を知らない韓国人視聴者を意識して、慰安婦にされた女性の名誉と尊厳を傷つけたことに対する反省とおわびを述べた河野洋平官房長官談話(1993年)、村山富市首相談話(95年)に沿って歴代首相が元慰安婦にあてた手紙に言及した。

 文氏は、私が河野談話や首相の手紙の説明をした場面では目を閉じて聞き、考え込むしぐさをした。答弁では、日韓関係の懸案には「まず(日本が2019年夏に行った対韓)輸出規制の問題があり、強制徴用判決問題がある」と切り出し、それらを外交的に解決する努力をしている最中に「慰安婦判決がさらに加わったので、正直少し困惑した」と心境を吐露した。

 そして、慰安婦問題解決のための2015年の日韓合意は「両国政府間の正式な合意」であり、それを土台としたうえで、被害者が同意する解決案を日韓両政府が模索し「韓国政府は原告を最大限説得する」と明言した。文大統領はこれまで、「合意は破棄も再交渉もしない」と言いながら、日本政府が10億円を拠出して韓国政府が設立した「和解・癒やし財団」を解散して事業をストップしており、そうした対応と比べれば、韓国政府が主体的に努力する姿勢を一歩踏み込んで示したと言える。賠償命令の強制執行については、慰安婦問題だけではなく、徴用工問題においても「望ましくない」と語り、「司法への不介入」を繰り返した従来の立場から変化が見えた。ただ、韓国政府としての具体的な解決案は示さず、過去の外交努力がどこまで有効なのかについても回答もなかった。

 だがその後、文政府が慰安婦問題の日本の外交努力全体を認めていると示唆する言葉が外務省見解に表れた。日本政府は主権国家が外国で裁かれない「主権免除」の立場から控訴せず、1月23日に判決が確定。茂木敏充外相が判決を「国際法違反」と批判し「韓国政府が適切な是正措置を行うべきだ」と求める談話を出したことを受け、同日夕、韓国政府の立場を説明した見解は次の通りだった。

 「韓国政府は、日本に対して政府レベルでいかなる追加請求もしない方針だが、被害当事者たちの問題提起を止める権利や権限を持っていない。慰安婦被害者らと相談して円満な解決に向けて、最後まで努力するが、日本も自ら表明した責任痛感と謝罪・反省の精神に基づいて、被害者たちの名誉・尊厳の回復と心の傷の治癒を向けた真の努力を見せなければならない」

 日本政府の過去の謝罪や反省を韓国政府としては受け入れるが、それが元慰安婦にちゃんと伝わるように日本政府が行動で示してほしいと訴えているように読める。

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堀山明子

外信部デスク

1967年生まれ。91年入社。静岡支局、夕刊編集部、政治部などを経て2004年4月からソウル支局特派員。北朝鮮核問題を巡る6カ国協議などを取材した。11年5月からロサンゼルス特派員。18年3月から3年間、ソウル支局長。