菅首相の「安倍政治の継承」とは何か

田中秀征・元経済企画庁長官
  • 文字
  • 印刷
田中秀征氏=宮武祐希撮影
田中秀征氏=宮武祐希撮影

 菅義偉首相は昨年9月の就任当初、新政権は「安倍政治を継承する」と明言した。

 これは安倍支持者への配慮や政権の円滑な継承を意図する政略的な面もあったであろうが、国民からすると漠然としていた新政権の思想や性格を推し量る数少ない発言でもあった。

 私がこれに違和感を持ったのは、菅氏のそれまでの政治遍歴と安倍思想との整合性を考えたからであった。

 彼は国政の舞台に登場以来、小渕派や加藤派など、いわゆる保守本流派閥に所属してきていた。だから戦前の国策の誤りを認めない安倍政治の継承は意外に思えたからだ。

 かつて私は保守本流の申し子と言うべき宮沢喜一元首相に「保守本流思想の核心部分」について問いただしたことがある。いかにも書生っぽい質問に戸惑いながら彼はこう答えた。

 「まあ先の大戦についての正しい歴史認識と言論の自由の尊重かな」と。

 宮沢氏が最も尊敬すると公言していた石橋湛山元首相も同様だ。石橋氏はかつて、自由な言論から将来に向かっての豊かな構想が生まれるとの趣旨の発言もしている。自由な言論を束縛すると将来展望が狭く、貧しくなるということだろう。

 だが、菅首相の日本学術会議会員任命拒否によって、彼の言論の自由に否定的な一面が明らかになった。保守本流の流れをくむ政治家だけでなく、長い間、自民党政治家のほとんどが、学術会議の会員が会議の推薦に従って任命されることを当然のことと受け止めてきた。それ…

この記事は有料記事です。

残り551文字(全文1148文字)

田中秀征

元経済企画庁長官

1940年長野県生まれ。東京大学文学部西洋史学科、北海道大学法学部卒業。83年衆議院議員初当選。93年6月に新党さきがけを結成し代表代行に就任。細川護熙政権の首相特別補佐。第1次橋本龍太郎内閣で経済企画庁長官などを歴任。福山大学教授を30年務め、現在、福山大学客員教授、さきがけ新塾塾長。主な著書に「日本リベラルと石橋湛山――いま政治が必要としていること」(講談社)、「判断力と決断力――リーダーの資質を問う」(ダイヤモンド社)、「自民党本流と保守本流」(講談社)、「平成史への証言」(朝日新聞社)。