ふらっと東アジア

中国リベラル知識人の「親トランプ化」とその後遺症

米村耕一・中国総局長
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退任前の最後の演説に臨むドナルド・トランプ前米大統領=米ワシントン近郊のアンドルーズ空軍基地で2021年1月20日、AP共同
退任前の最後の演説に臨むドナルド・トランプ前米大統領=米ワシントン近郊のアンドルーズ空軍基地で2021年1月20日、AP共同

 米国のトランプ前大統領の支持者のことを中国のインターネット用語で「川粉(チュアンフェン)」という。トランプ氏を意味する川普(チュアンプ)とファンを意味する粉絲(フェンス)を合体させた造語だ。

 昨年11月の米大統領選前後、日本でもトランプ支持者の存在が話題になったが、中国でも、中国共産党に批判的で、人権や自由、民主主義といった普遍的価値を重視するリベラルな大学教授や社会活動家などがこぞって「川粉」となる現象が起きていた。

「トランプ氏を批判する者はチンピラ」

 後述する米エール大学の林垚(リン・ヤオ)博士の論文に登場する例を紹介する。労働者の人権や言論の自由などで積極的に発言する清華大学の社会学者、郭于華氏は、2018年6月にツイッター上で「西側(諸国)の左派も、中国の左派もトランプをチンピラ扱いするが、実のところトランプを批判し、戯画化する彼らこそがチンピラだ」と書き込み、その後も継続して強いトランプ氏支持の姿勢を見せた。ちなみに中国内の位置づけでは「左派」が共産党に近い側で、リベラル派は「右派」になる。

 また、同じくリベラル派と目される清華大学の社会学者、孫立平氏は2019年5月のエッセーで、トランプ氏の政治手法を「改革開放初期の思想開放運動に似ている」と評価し、「妄言の連続」と言われるトランプ氏の発言が、「米国をより若く活力ある社会へと変えていく可能性がある」と称賛した。「改革開放」とは、鄧小平の主導で1978年から始まった市場経済への移行政策のことである。

 私自身もツイッターで多くの中国の知識人、社会活動家やジャーナリストをフォローしている。ツイッターは中国では特殊なソフトを使わなければ接続できず、中国内から発言している人たちには、人権・自由重視派が多い。その中でも確かにトランプ氏支持の声は大きく、米大統領選前後にはトランプ支持派と、そうでない人たちとの間で、かなり感情的な言い争いが起きているのを目にした。

「敵の敵は味方」だけではない理由

 中国の民主派、人権派、改革派と言われるリベラル知識人たちの中にトランプ氏を支持する人が多かったのはなぜか。私は単純に「敵(中国共産党)の敵(トランプ氏)は味方」だからだという論理で考えていた。

 しかし実は、私がリベラル知識人たちの「親トランプ化」現象に気づくずっと前の昨年5月、彼らがトランプ氏を支持した理由はそう単純ではなく、より根深い背景があることを明らかにした論文が米学術誌に掲載され、専門家の間で話題を呼んでいた。林垚博士の“Beaconism and the Trumpian Metamorphosis of Chinese Liberal Intellectuals(灯台主義と中国リベラル知識人の親トランプ化)”という論文だ。林氏は背景を論証しただけでなく、この現象が中国社会に与える影響についても説明している。

 米エール大学で法律を学ぶ中国出身の林氏は現在37歳。北京大学卒業後に米コロンビア大学で政治学の博士号を取得した後、中国に戻って大学で一時、政治思想を教えた。しかし、習近平国家主席批判の言説を問題視した中国政府によって2018年に教職を追われ、中国を離れざるを得なくなったという経歴の持ち主だ。

 なぜ、「敵の敵は味方」論では、十分に知識人たちの「親トランプ化」を説明できないのか。なぜ、知識人たちの親トランプ化が中国の政治・社会の未来に重要な影響を与えるのか。2月上旬、林氏にオンラインでインタビューした。

 Q 中国の知識人たちによるトランプ支持、なぜ「敵の敵は味方」では説明できないのか?

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米村耕一

中国総局長

1998年入社。政治部、中国総局(北京)、ソウル支局長、外信部副部長などを経て、2020年6月から中国総局長。著書に「北朝鮮・絶対秘密文書 体制を脅かす『悪党』たち」。