オリンピックがコロナ対策を狂わせた

森永卓郎・経済アナリスト、独協大学教授
  • 文字
  • 印刷
森永卓郎氏=藤井太郎撮影
森永卓郎氏=藤井太郎撮影

無観客でもオリンピックは開催する

 森喜朗氏から東京オリンピック・パラリンピック(以下オリンピック)組織委員会の後継会長を要請され、前向きな姿勢を見せていた川淵三郎氏が、たった1日で会長職就任を辞退する意向を明らかにした。政府が川淵氏の就任に難色を示したためだと報じられている。

 政府は、なぜ川淵氏の会長就任を拒否したのだろうか。表向きの理由は、「透明な手続きを経て後任を決めなければならない」というものだ。だが、それだけではないのではないか。国会で森前会長を辞めさせるかを問われた菅義偉首相は、「政府に会長人事の権限はなく、組織委員会が決めること」と突き放した。その舌の根も乾かないうちに、川淵氏のハシゴを外したのは、政府に川淵氏の会長就任を回避したい強い意思があったからではないか。

 私には思い当たるふしがある。川淵氏は森前会長から後継指名を受けた2月11日に、記者からの問いかけに「会長は東京オリンピック開催の可否について判断しなければならない」と答えた。森前会長は、「開催の可否を検討するのではなく、開催のためにどうするのかを検討する」という立場だった。また、川淵氏は、「観客がいなくてオリンピック、日本でやる値打ちあるの? 海外でやるのと同じ」とも話している。無観客開催で、テレビでみるだけなら、日本でやる意味がないというのは、多くの国民が共感する「常識」だ。その常識を語った川淵氏を引きずり下ろしたということは、裏返せば、政府は無観客でもオリンピックを開催する強い決意を固めているということだろう。

 国際オリンピック委員会(IOC)は、収入の7割をテレビ放映権料が占めているから、無観客開催であっても開催したい。国内でオリンピック利権を持つ人たちも,立場は基本的に同じだ。

 一方、無観客でも世界から選手団を集めれば、東京で新型コロナのクラスターが発生する可能性は少なくない。リスクは大きいのだ。

 ところが、政府は何が何でも7月に開催したいと考えているようだ。私は、そのことがコロナ対策の失敗にもつながっているのではないかと考えている。

PCR検査が進まないのはオリンピックのため?

 先月の本稿<緊急事態の非科学性>で指摘したように感染拡大を抑える最も効率的で効果的で安全なのは、大都市を中心に大規模なPCR検査を行って、陽性者を隔離することだ。しかし、オリンピックをどうしても開催した…

この記事は有料記事です。

残り1774文字(全文2770文字)

森永卓郎

経済アナリスト、独協大学教授

1957年生まれ。日本専売公社、経済企画庁、三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)などを経て独協大経済学部教授。専門はマクロ経済、計量経済、労働経済。コメンテーターとしてテレビ番組に多数出演。著書に「年収300万円時代を生き抜く経済学」(光文社)など。