アフリカン・ライフ

新型コロナで世界のモラルは崩壊するのか

平野光芳・ヨハネスブルク支局長
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英製薬大手アストラゼネカの新型コロナワクチン=AP
英製薬大手アストラゼネカの新型コロナワクチン=AP

深刻な新型コロナワクチン不足

 A型肝炎、B型肝炎、破傷風・ジフテリア・百日ぜき、腸チフス、髄膜炎、狂犬病、日本脳炎、黄熱病――。

 私はインドネシア・ジャカルタ支局(2014~18年)と南アフリカ・ヨハネスブルク支局(20年~)で、東南アジアやアフリカの発展途上国の取材を担当してきた。現地の医療・衛生状態を考慮し、これまでに接種を受けた渡航用ワクチンは8種で計16回になる。もちろん日本で普通に暮らす分には必要のないものがほとんどだ。健康保険の適用外なので料金も割高で、費用は総額20万円近くになった。途上国でも衛生状態が比較的良い首都や国際的な観光地に滞在するだけならここまでする必要はないだろうが、取材では旅行ガイド本に載っていないようなへき地を旅することも多いから仕方ない。

 接種を担当する医師には「途上国で病気になったら、日本と同じように助かる見込みはありませんよ。保険だと思ってください」と言われたことがある。まったくその通りだと思う。医療・衛生状態が良くない場所ほど、ワクチンで得られる恩恵は大きい。

 ところがその医療・衛生状態が良いとは言えないアフリカをはじめとする途上国が、新型コロナウイルスのワクチンの確保で苦戦している。米デューク大学の集計(2月15日時点)によると、欧州連合(EU)が既に18億8500万回分のワクチンを確保したのに対し、アフリカの55カ国で作るアフリカ連合(AU)が独自に確保できたのは6億7000万回分にとどまる。AUの域内人口はEUの2倍以上であり、差は歴然としている。

 新型コロナワクチンの多くは2回接種を前提としている。デューク大によると、米国が12億1000万回、日本が3億1400万回、英国が4億700万回など、先進国が軒並み全国民をカバーできるワクチンを確保した。豊かな先進国は欧米の大手製薬会社に対してワクチン開発段階から資金を援助するなどして、早い段階からがむしゃらにワクチンの予約を取り付けた。その結果、途上国が現在も確保に四苦八苦する一方で、カナダが必要量の5倍以上、米英やEU、オーストラリアなども2倍以上を確保する「ワクチン格差」が鮮明になっている。

 現在の世界の状況は、遊園地の行列に例えると分かりやすいだろう。テーマパークによっては追加料金を支払うと、行列にほとんど並ばずにアトラクションが楽しめる特別なパスを購入できる。特別パスを持っているのが先進国で、長い一般レーンに並ぶのが途上国だ。パス所持者(先進国)にすれば優越感と少し罪悪感も覚えつつ、「たくさんお金を支払ったのだから、当然のサービスだ」と考えるだろう。一方、まったく先が見えない行列に並ぶ一般客は「やっぱりお金持ちはいいな」と、絶望的な気持ちで先頭に目をこらしている。パス所持者の中には一般客がずっと並んでいる間に、2、3回と楽しもうとする人もいる。やはり一般客はやりきれない…

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平野光芳

ヨハネスブルク支局長

2001年入社。大津支局、福井支局敦賀駐在、大阪社会部、ジャカルタ特派員、奈良支局などを経て20年からヨハネスブルク支局長。共著に「なぜ金正男は暗殺されたのか」