ウェストエンドから

英国はインド太平洋に「回帰」するのか

服部正法・欧州総局長
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アジア太平洋に派遣予定の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」号=英ポーツマス海軍基地で2020年9月9日、AP
アジア太平洋に派遣予定の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」号=英ポーツマス海軍基地で2020年9月9日、AP

 中国と対立を深めた米国のトランプ前政権が去ったが、バイデン新政権も発足直後から、中国政府への厳しい対決姿勢を鮮明にしている。そんな中、米国と「特別の関係」にあるとされる盟友・英国が、中国を警戒する諸国との連携強化も念頭に、インド洋や太平洋への関与を強める動きを見せている。スエズ運河以東から英軍を撤退させて半世紀、英国は本当にアジア「回帰」するのか。そして、インド太平洋に確固とした対中包囲網が形成されることになるのだろうか。

バイデン米政権の「クアッド」重視姿勢

 バイデン米大統領は2月8日、就任後初めてインドのモディ首相と電話協議をした。米ホワイトハウスの発表によると、両首脳は「自由で開かれたインド太平洋」の促進のために緊密な協力を継続することで合意し、中でも「クアッド」を通じた地域の連携強化への支持で一致したという。

 クアッドとは、日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国による非公式な協力の枠組みの通称。4カ国は近年、共有する民主主義的価値観を基盤として安全保障面などで連携を深め、定期的に協議を重ねている。一方、中国はこうした日米豪印の動きを対中包囲網の形成と捉え、「冷戦思考(の産物)」と評して不快感を隠さない。「インド太平洋版の新たな北大西洋条約機構(NATO)を構築しようとしている」(王毅国務委員兼外相)と警戒感もあらわにする。

 米政府は最近、日米豪印のオンラインによる初の首脳会談開催も打診したとされる。積極的で矢継ぎ早なバイデン政権の4カ国連携強化の動き。これは一体は何を示すのか。

 シンガポールで毎年、アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)を主催してきた英シンクタンク「国際戦略研究所」(IISS)の上席研究員で、シンガポールをベースにアジア太平洋の安全保障状況を研究してきたユアン・グラハム氏は、私の電話取材に対し、「クアッドをNATOと比較するのは有用ではない。NATOとは異なり、クアッドは条約に基づいた組織ではない。緩い連合を形成しようとする試みだ」との認識を述べた。そして、「中国は強大で、米国1国のみでアジアにおいて長期的に中国に対抗することはできず、他国の支援を得ねばならない」と指摘。

 同じ民主党でバイデン政権と政府のスタッフに重なりがあるオバマ政権(2009~17年)の対中姿勢について、米中2国間の交渉を進めたが「結果的に米国は利益を得られなかった」と説明し、「バイデン政権の当局者は中国と2国間交渉するリスクを理解しており、オバマ政権の間違いは繰り返さないだろう。バイデン氏が首脳レベルでのクアッド(の協議)に積極的なのは、中国への対抗には諸国連合の形成が必要と認識しているからだ」と分析する。

英国のクアッド参加を望む声

 多国間連合で中国に対応しようというバイデン政権の取り組みは、クアッドの枠を超える方向に進む可能性もささやかれる。

 政権は対中政策の司令塔とも言える新設のポスト「インド太平洋調整官」に、アジアに明るいカート・キャンベル元国務次官補を任命した。キャンベル氏は政権スタート直前、米外交誌「フォーリン・アフェアーズ」への寄稿で、クアッドの枠組み拡大を提唱した。

 キャンベル氏の提唱に呼応するかのような動きを見せているのが英国だ。

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服部正法

欧州総局長

1970年生まれ。99年、毎日新聞入社。奈良支局、大阪社会部、大津支局などを経て、2012年4月~16年3月、ヨハネスブルク支局長、アフリカ特派員として49カ国を担当する。19年4月から現職。著書に「ジハード大陸:テロ最前線のアフリカを行く」(白水社)。