
2021年1月に開かれた朝鮮労働党第8回大会は、前回の大会から取り組んできた「国家経済発展5カ年戦略」がほとんど目標を達成できずに終わったことを認めたうえで、新たな「国家経済発展5カ年計画」(計画)を策定した。しかし、2月に開催された党中央委員会総会の状況からは、計画をめぐる混乱もみえる。
制裁下で持続可能な経済体制を目指す
計画が最も強調しているのは、「自力更生、自給自足を新たな国家経済発展5カ年計画の基本趣旨、主題として、我が経済をいかなる外部的影響にも動揺することなく持続的に発展する正常軌道にしっかりと乗せる」ことだ。
「自力更生、自給自足」とは、「原料、資材の国産化、再資源化を生命線として堅持し、我々の力と技術、我々の資源に依拠して飛躍を起こす」という意味だ。経済制裁の下でも持続可能な経済体制を作ることで、対外関係で妥協することなく自らの主張を堅持するという発想に基づく。当分の間、対米交渉の急展開などは想定しておらず、大幅な譲歩や冒険的な行動に出る可能性は比較的低い。
伝統的な計画経済を強化
金正恩総書記は、党大会の結論の中で、計画を進めるうえでの経済管理改善の重要性を指摘し、「国家の統一的指揮と管理の下に経済を動かす体系と秩序を復元し強化」すべきだと訴えた。中央委員会総会でも同じ主張を繰り返している。
また、報道では「自力更生」に関し、「我々が言う自力更生は、決して各部門、各単位がそれぞれ自体で生きていく自力更生ではな(く)……国家の統一的指導と戦略的管理の下に遂行される中央集権的な自力更生とならなければならない」ことが強調され、個別の企業などが国家的利益よりも企業利益を優先させることを戒めている。
一方、企業の自主的権限強化などの改革的な主張はほとんど見られない。…
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坂井隆
北朝鮮問題研究家
1951年生まれ。78年公安調査庁入庁、北朝鮮関係の情報分析などに従事、本庁調査第二部長を最後に2012年退官。その後も朝鮮人民軍内部資料の分析など北朝鮮研究を継続。共編著書に「独裁国家・北朝鮮の実像」(2017年、朝日新聞出版)、「資料 北朝鮮研究Ⅰ 政治・思想」(1998年、慶応義塾大学出版会)など