自衛隊のリアル

中国海警法への対抗策「海自が海保の統制下で対処」

滝野隆浩・社会部専門編集委員
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2019年8月に撮影された中国海警局の船=第11管区海上保安本部提供
2019年8月に撮影された中国海警局の船=第11管区海上保安本部提供

 中国が自国周辺の海洋警備を担う海警局(英名:China Coast Guard)の任務や権限を定めた海警法が施行されて1カ月たった。中国公船は連日、沖縄県・尖閣諸島周辺の領海への侵入を繰り返しており、国内メディアは海警法が「武器使用を明文化(22条)」したことを指摘、批判している。

 その中で、中曽根平和研究所の海洋安全保障研究会は、「とくに、一方的に定めた『管轄水域内』での軍艦公船に対する強制的措置を定めた21条を看過してはならない」とする緊急声明を、同法施行日にあわせて公表した。

 強権的に既成事実を積み重ねて尖閣領有化を目指しているともみられる中国とどう向き合えばいいのか。同研究会委員長の齋藤隆・元統合幕僚長に声明公表までの経緯を聞いた。齋藤氏は「中国の策略に乗らないためには、相当の覚悟が必要だ」として、「海自が海保の統制下で対処すべきだ」というこれまでにない斬新な新提案をしたのだった。

尖閣諸島を実効支配する制度

 日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。アメリカは同盟関係を軽視したトランプ氏が退場しバイデン新政権が誕生したものの、その外交防衛戦略はまだ見えてこない。北朝鮮は核開発を前面に押し出し生き残りに懸けようとしているし、ロシアも極東の軍事力を増強に注力している。だが、喫緊の課題はやはり中国といっていい。有形無形の圧力をかけてきている。

 中国は海警法を成立させ、2月1日に施行した。同法では「海警は管轄水域において中国の法令に違反するのを阻止するために必要な警戒及び取り締りの措置を講じ……」(21条)とし、また、「危険に直面している場合、海警機構はこの法律及びその他の関連する法律、法規に従って武器の使用を含む必要な全ての措置を講じ……」(22条)と明記した。

 つまり、中国が勝手に「管轄権あり」と定めた水域で、準軍組織である海警が「武器使用」をする権限を持ったのだった。それはとりもなおさず、中国が尖閣諸島を実効支配する制度と能力を持ったということにほかならない。

法律戦と心理戦

 ただ、中国が尖閣諸島周辺で直ちに、日本の船に対して武器で威嚇するとは思えない。よく言われるように、中国は当面は軍事力を用いず、「世論戦」「心理戦」「法律戦」の「三戦」を仕掛けてくる。それは、じわじわと領海侵犯を繰り返し、動揺させ、既成事実を積み上げていくやり方で、「サラミ戦略」ともいわれている。

 海警法の成立・施行は法律戦であり、巧妙な心理戦の一環でもある。国内法で国際法とは相いれない「管轄水域」を定めておいて「武器使用」を明記し、関係国の国民の動揺を誘おうとしている。国内メディアがこぞって「武器使用」の条文に反応して批判したのを喜んでいるのは、ほかならぬ中国なのかもしれない。

 そうした中で、中曽根平和研究所海洋安全保障研究会が出した緊急声明は、冷静に事態を分析しているのが特徴だ。「武器使用」の22条より、「管轄水域」内における軍艦・公船の行動を制約する21条のほうを「国際水域における航行自由の原則を制約するもので、これが実行された場合には明らかに国際法に違反する規定である」と批判している。しかし、この声明を読んだだけでは真意は伝わらない。声明作成を主導した齋藤・元統幕長に話を聞いた。

 ◇ ◇

 ――海警法をどう読みますか。

 齋藤氏 中国はその管轄海域を自国の一部と見なしているのだろう。そうして海警を対外的には法執行機関と言いつつも、内実は「第2海軍」として位置づけているように見える。…

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滝野隆浩

社会部専門編集委員

1983年入社。甲府支局、社会部、サンデー毎日編集部、夕刊編集部副部長、前橋支局長などを経て、社会部専門編集委員。現在、コラム「掃苔記」を連載中。人生最終盤の緩和医療・ケア、ホスピスから死後の葬儀、墓問題までを「死周期」として取材している。さらに家族問題のほか、防衛大学校卒の記者として自衛隊をテーマにした著書も多数。著書に「宮崎勤精神鑑定書」「自衛隊指揮官」「沈黙の自衛隊」「自衛隊のリアル」「これからの葬儀の話をしよう」などがある。