
2月24日、バイデン米大統領は、国内の半導体製造業者に370億ドルの支援を行う大統領令に署名した。翌25日、上院財政委員会では次期米通商代表部(USTR)代表に指名されたキャサリン・タイ氏に対する承認公聴会が開かれた。バイデン新政権の経済・貿易政策はどうなるのか。今回の「公開情報深読み」コラムはこの上院公聴会でのやりとりを深読みしたい。以下はあくまで公開情報のみに基づいて書いた筆者の個人的分析である。
1、消えた「自由貿易主義」への言及
今回の次期USTR議会承認公聴会の模様を深読みする上で参考になるのが20年前の公聴会だ。2001年1月30日、当時の上院財政委員会に次期USTR代表候補として呼ばれたのは、後に国務副長官から世界銀行総裁となるロバート・ゼーリック氏だった。個人的にもご縁があったゼーリック氏の次の冒頭発言を読み直してみると、実に隔世の感がある。
(1)自由貿易の拡大はアメリカ人の生活向上に資する
(2)経済的自由は自由の気風を育み、民主主義への期待を高める
(3)貿易の拡大は米国の安全保障に影響を与える
あれからちょうど20年、バイデン政権のUSTRの政策は大きく変わってしまったようだ。
2、新たな「米国労働者の利益」と「高水準の労働環境」への言及
今回の公聴会の冒頭、タイ氏は中国本土で生まれ台湾で育ち米国に移民して医療業務に従事した両親に言及した上で、「我々はアメリカ国民の利益を増進する政策、すなわち、消費者だけでなく、アメリカの労働者と給与所得者を念頭に、米国内の広範かつ平等な成長を促進する政策を追求しなければならない」と述べた。
20年前との最大の違いは、今や米国のUSTRが自由貿易に一切言及しなくなったことだ。だが、こうした発言はタイ氏の専売特許ではない。この公聴会が上院で開かれていた頃、トニー・ブリンケン国務長官は就任後初の本格的外交演説を行い、バイデン政権の経済・貿易政策について詳しく言及している。重要と思われるので該当箇所をご紹介しよう。
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キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
1953年生まれ。外務省日米安全保障条約課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを経て2005年に退職。立命館大客員教授、外交政策研究所代表なども務める。近著に「AI時代の新・地政学」。フェイスブック「Tokyo Trilogy」で発信も。