麗しの島から

水面下で早くも進む「ポスト蔡」争い

福岡静哉・台北特派員
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蔡英文総統=台北市で2020年1月11日、福岡静哉撮影
蔡英文総統=台北市で2020年1月11日、福岡静哉撮影

 台湾で2024年に行われる次期総統選に向けた「ポスト蔡英文」争いが早くも熱を帯びている。台湾メディアでは関連報道が増え、世論調査も始まった。

 蔡英文総統(64)は、新型コロナウイルス対策や米国との関係強化などが評価され、比較的高い支持率を維持している。ただ、台湾総統の任期は2期8年までで、2期目の蔡氏は2024年5月に退任することが決まっている。

 与党・民進党内では水面下の動きが出始め、「ポスト蔡」候補が絞られつつある。一方、党勢低迷に悩む野党・国民党にも、人気急上昇の政治家が現れた。総統選の行方は日本の外交政策にも大きな影響を与える。現状の動きと今後の展望を現地から報告したい。

民進党は頼清徳副総統と鄭文燦桃園市長が有力

 台湾政界で最近注目を集めたのが、蔡氏の側近らが主催した2回の食事会だ。劉櫂豪立法委員(国会議員)ら「蔡派」のメンバー数人は2020年12月8日、台北市にある蔡氏の事務所に頼清徳副総統(61)を招き、夕食を共にした。次いで1カ月後の21年1月8日夜には、同じ場所で北部・桃園市の鄭文燦市長(53)とテーブルを囲んだ。頼、鄭の両氏は有権者に人気があり、民進党で24年総統選に向けた有力候補の筆頭と言える。今後の「ポスト蔡」争いも絡み、注目された会合だった。だがそのムードには違いがあったようだ。

 蔡氏側近と頼氏の食事会について台湾メディアは「和解の試み」などと相次いで報じた。「和解」とは、総統と副総統の間に対立があったことを意味する。どのような対立があったのか。それは、20年総統選の公認候補を蔡氏に決定した2年前の民進党予備選にさかのぼる。

埋めがたい蔡氏と頼氏の溝

 蔡氏は20年1月の総統選で再選された。だが実は、予備選前は「再選は難しい」との見方が大勢だった。蔡氏は内政の混乱などで18年秋の統一地方選で大敗し、党主席を引責辞任。支持率が低迷していたためだ。それでも党内では、現職の蔡氏だけが出馬するとの見方が強かった。

 ところが予備選の届け出が始まった19年3月18日朝、頼氏が突然名乗りをあげた。低迷する蔡氏の支持率をみて、「総統選に出馬するチャンスだ」と考えたのだろう。

 頼氏は医師出身。立法委員(国会議員)を4期、南部・台南市長を2期、蔡政権下の17年9月~19年1月には行政院長(首相)を務めた。総統を目指す上で、この時点でも政治経験は十分だ。一方で、行政院長時代に「私は台湾独立のために働く政治家だ」と明言し、物議を醸した。台湾統一を目指す中国政府にとっては最も総統になってほしくない人物と言えよう。

 19年予備選は、党が独自に実施する世論調査で支持率が最も高い候補を公認に決める、というルールだった。予備選の届け出が始まったころ、大半の世論調査で頼氏が蔡氏を上回り、4月に予定された党の世論調査で頼氏が勝つ可能性は高かった。

 蔡氏側は頼氏に対し、出馬を取り下げるよう何度も要請。だが頼氏は譲らなかった。そこで蔡氏の陣営は、実務を取り仕切る党執行部を通じて予備選を6月に遅らせ、時間稼ぎを図った。

 というのも蔡氏の支持率がこの時期、回復基調にあったからだ。それは、中国の習近平国家主席が19年1月に「1国2制度」による台湾統一に強い意欲を示したことに対し、蔡氏が強く反論したことがきっかけだった。さらに1国2制度下にある香港で、予備選の世論調査開始の直前に政府への大規模な抗議運動が始まったことが、台湾市民の「反中」世論を強めた。中国に対して厳しい姿勢を取っていた蔡氏はこれを追い風に、現職の強みもあって19年6月、予備選に逆転勝利した。

 台湾の総統選では、総統、副総統の候補を選挙管理委員会に届け出る。蔡氏はこの年11月、対立した頼氏を副総統候補に指名し、挙党一致体制を演出。国民党の韓国瑜氏(63)らに大勝した、というのが前回総統選の経緯だ。

 その後、総統と副総統として、共に政権運営に当たってきた。ただ民進党内では、予備選で深まった2人の溝は埋まっていないとみられてきた。

 12月8日にあった蔡氏側近と頼氏の食事会について、詳細はほとんど報じられていない。ただ、政権トップの側近がナンバー2を食事に招いただけでニュースになること自体、蔡氏と頼氏の難しい関係を物語っている。

 民進党関係者は言う。「頼氏との間には今もまだ、わだかまりがある。一番苦しい時に背を向けた人と簡単に仲良くできるはずがない」

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福岡静哉

台北特派員

1978年和歌山県生まれ。2001年入社。久留米支局、鹿児島支局、政治部などを経て2017年4月、台北に赴任した。香港、マカオのニュースもカバーする。