ふらっと東アジア

「刑務所」は実在した。新疆で考えたウイグル問題

米村耕一・中国総局長
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アクス市郊外に最近設置された「刑務所」の正門=2021年3月1日、米村耕一撮影
アクス市郊外に最近設置された「刑務所」の正門=2021年3月1日、米村耕一撮影

 人権重視を掲げるバイデン米政権は、新疆ウイグル自治区での少数民族問題に対する人権侵害を「ジェノサイド(民族集団虐殺)」と認定し、中国政府は「少数民族の人権は守られており、荒唐無稽(むけい)なデマだ」と反論する。

 米中関係の大きな焦点の一つとなったウイグル問題について、まずは現地の状況を見てみようと2月末から3月初めにかけて、ウイグル族の人口比率の高いカシュガル、アクス両地区を回った。

やはり刑務所だった

 特に最近は新疆での取材は難しいと聞いていた。現地の少数民族住民が自由に話をできる状況ではなく、外国人記者に対する監視も厳しいためだ。相手に迷惑をかける可能性を考えると、インタビューで人権侵害などについて聞くことは不可能に近い。

 そのため、目的の一つを、衛星写真から新疆の状況を分析している豪戦略政策研究所(ASPI)の「2017年以降に監視の厳しい収容所が多数、新設、増設されている」との指摘の確認に絞ってみた。中国政府は強制収容所の存在は否定し、「収容所」だと批判されている「就業技術教育訓練センター」の運営も19年10月で終わったと説明しており、言い分が明確に違うからだ。

 先に結論を言えば、現地で見ることを目指したASPIが収容所だと指摘する3カ所のうち、カシュガルにある1カ所は現在、収容所ではなく中国共産党の幹部教育施設として使われていることがわかり、もう1カ所は近づくことすらできず、残る1カ所は新たにつくられた巨大な「刑務所」であることが確認できた。

 近づくことができなかったのは、タクシーがその施設がある町まで行ってくれなかったからだ。カシュガルから北に60キロほど行った隣町に、壁に囲まれた広大な施設があるのが衛星写真では見える。しかし、カシュガル市内でつかまえたどのタクシーにも「その町にはいけない」「簡単に入れる場所ではない。途中で検問がある」「まだ開放されていないはずだ」と断られ、断念した。具体的な「行けない理由」は誰も答えてくれず、また実際に知らないようだった。

 最後に向かったアクス市郊外の施設は、なかなか行き方がわからず、4回目のトライでやっとたどり着いた。その間はずっと3~4台の車の尾行がついた。建前は「外国人記者の支援と保護」ということだろうが、もちろんこちらからは、市当局には何の連絡も依頼もしていない。

 私は覚悟していたので良いのだが、3回目までのトライで使ったそれぞれのタクシーのウイグル族の運転手たちは尾行されていることに気がつくと極度に不安そうになった。目的地に近づくためには、荒野の一本道を、私が乗ったタクシーと、尾行する3~4台だけで走ることになる。すると、運転手はますますパニックになり、「もうこれ以上は行きたくない。空港や市中心部、あるいは観光地などちゃんとした目的地に行くか、降りてほしい」と言い、そのたびにUターンして市内に戻るほかなかった。

 4回目の挑戦でなんとかたどりつけたのは、運良く中国の多数派である漢族が運転するタクシーがつかまったおかげかもしれない。彼は最後まで堂々としていたからだ。

 市中心部から、点在する紡績工場のほかはただ荒野が広がる中を南にひた走り、緩やかに左にカーブしたところで突然、右側に大きな建物群が見えた。立派な正門があったが、施設名を指す表札は一切なかった。ただ、位置や大きさから、ASPIが指摘する施設だという確信は…

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米村耕一

中国総局長

1998年入社。政治部、中国総局(北京)、ソウル支局長、外信部副部長などを経て、2020年6月から中国総局長。著書に「北朝鮮・絶対秘密文書 体制を脅かす『悪党』たち」。