宮家邦彦の「公開情報深読み」

バイデン政権の東アジア政策 日米・米韓・米中閣僚会談の公開情報を「深読み」する

宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
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宮家邦彦さん
宮家邦彦さん

 3月第3週、バイデン政権の東アジア外交が動いた。トニー・ブリンケン国務長官はロイド・オースティン国防長官とともに日本と韓国を訪問し、それぞれ外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開催した後、アラスカ州に飛んだ。

 ジェイク・サリバン大統領補佐官と共に中国の楊潔篪(よう・けつち)共産党政治局員・王毅国務委員兼外相と意見交換を行うためである。

 今回も公開情報は十分ある。日米2プラス2、米韓2プラス2については、それぞれ共同文書が発表され、共同記者会見が行われた。一方、米中の意見交換では共同文書作成や共同記者会見はあまり行われない。

 だが今回はひょんなことから、本来非公開で行われるはずの米中間の激しい非難の応酬が、内外メディアの面前で始まるというハプニングが起きた。

 バイデン政権発足後初の閣僚海外出張先が東京2プラス2会合だったのは「日本重視」の証拠で意義深い、といった陳腐なコメントはもう不要だろう。今回の「公開情報深読み」コラムでは、過去1週間に行われた日米韓中間のさまざまなやりとりを公開情報に基づいて深読みする。以下はあくまで公開情報のみに基づいて書いた筆者の個人的分析である。

リンチピンか、コーナーストーンか

 日韓との2プラス2共同発表では、米韓同盟を「朝鮮半島とインド太平洋地域の平和、安全及び繁栄の基軸(linchpin)」と表現したのに対し、日米同盟は「インド太平洋地域の平和、安全及び繁栄の礎(cornerstone)」だとしている。韓国の一部に、この違いは米国が日本よりも韓国を重視していることの証拠と見る向きもあるそうだが、それは違うだろう。

 「linchpin」は以前日米同盟についても使われていた言葉だから、両者のニュアンスの違いを論じてもあまり意味はない。むしろ重要なことは、今回韓国側が「インド太平洋地域」を米韓同盟の目的との関連で公式に言及したことだ。これまでは米韓双方とも米韓同盟と「インド太平洋」を積極的に関連付けてこなかったので、新たな動きとみるべきだろう。

インド太平洋とクアッド

 しかしながら、韓国は今回「インド太平洋地域」を書き込むに当たり条件を付けている。米韓共同文書では、米韓が「韓国の新南方政策との協力を通じて、自由で開かれたインド太平洋地域創造のため協力する(to create a free and open Indo-Pacific region through cooperation with the ROK's New Southern Policy.)」と述べているからだ。

 同様の留保はクアッド(日米豪印)対話にも付けている。米韓2プラス2会合後の共同記者会見で韓国外相はクアッド参加の可能性について問われ、「参加の議論はなかったが、韓国の新南方政策を米国のインド太平洋戦略といかに調整(harmonize and coordinate)するかについて議論した」としか答えなかった。韓国はまだ中国に配慮しているのだろう。

中国と北朝鮮

 日米と米韓の共同文書の最大の違いは対中政策に関する部分だ。日米共同文書では中国による「ルールに基づく国際体制を損なう、地域の他者に対する威圧や安定を損なう行動に反対」し、「尖閣諸島に対する日本の施政を損なおうとする、いかなる一方的な行動にも引き続き反対」するとした。ところが、米韓文書では中国に関する言及が一切ない。

 それだけではない。北朝鮮の核問題について、日米は「北朝鮮の非核化」を求めたのに対し、米韓では「朝鮮半島の非核化」にしか言及していない。

 さらに、日米韓三国協力についても、米韓文書では「地域の平和、安全及び繁栄のため、互恵的で前向きな協力を引き続き促進する(to continue promoting mutually-beneficial, forward looking cooperation)」と条件を付している。どうやら米国の韓国に対する働き掛けは実を結んでいないようだ。

米中会合の冒頭取材は異例の展開

 しかし、先週何よりも興味深かったのは、アラスカでの米中のやり取りだ。NHKは「今回の会談は短時間で終わるとみられていた双方の冒頭発言が1時間以上にわたって行われ、メディアの前で強いことばで互いを非難し合ったり、会場を出ようとした報道陣を呼び戻して予定にはなかったとみられる反論をしたりする異例の展開」になったと報じた。

 これに対し、新華社通信は中国側代表団の話として「われわれは事前の打ち合わせどおりに準備して臨もうとしたのに、米側の冒頭発言が予定時間を大幅にオーバーした」と伝え、米側を非難したという。それにしても、なぜこんな異例ともいえる展開になったのか。そのメカニズムを筆者自身の実経験を踏まえながらあえて解説してみよう。

冒頭から中国批判を始めた米側

 通常のこの種の冒頭発言は「簡にして要を得る」のが原則だ。メディア取材が入るので、時間的にはせいぜい10分だから、1人当たりは2分程度。儀礼的あいさつの応酬から双方言いたいことを簡潔に言い合うのが普通だ。その意味で、今回米側出席者の発言が「予定時間をオーバーした」ことはない。問題は時間の長短ではなく、発言の中身である…

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宮家邦彦

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1953年生まれ。外務省日米安全保障条約課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを経て2005年に退職。立命館大客員教授、外交政策研究所代表なども務める。近著に「AI時代の新・地政学」。フェイスブック「Tokyo Trilogy」で発信も。