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ボルソナロ大統領再選に黄色信号?対抗馬に元大統領が急浮上

山本太一・サンパウロ特派員
有罪判決の無効決定を受けて演説するルラ元大統領=ブラジル最大都市サンパウロ郊外で2021年3月10日、APdre Penner)
有罪判決の無効決定を受けて演説するルラ元大統領=ブラジル最大都市サンパウロ郊外で2021年3月10日、APdre Penner)

 ブラジルで、今も貧困層を中心に根強い人気のある左派・労働党のルラ元大統領(75)が、極右のボルソナロ大統領(66)の再選を阻む最有力候補になる可能性が出てきた。最高裁が3月、ルラ氏に対する汚職事件について、有罪判決を取り消す決定を出したためだ。次期大統領選は1年半後に控える。新型コロナウイルスの再流行が深刻化する中、2人は舌戦を交わし、既に前哨戦の様相を呈している。

ルラ元大統領に出馬の道開いた最高裁決定

 ルラ氏は2003年から2期8年、大統領を務めた。在任中、便宜を図る見返りに大手建設会社から賄賂を受け取ったなどとして、収賄や資金洗浄(マネーロンダリング)などの罪に問われている。

 これに対し、最高裁のファキン裁判官は3月8日、下級審で有罪とされた2件の判決など計4件の公判について有効性を取り消した。南部クリチバの地裁は、100人以上が有罪判決を受けた疑獄事件の一部としてルラ氏にも有罪判決を下したが、4件はいずれも疑獄事件に関連せず、地裁に管轄権はないと判断したためだ。そのうえで、ルラ氏が在任中に過ごした首都ブラジリアの地裁で4件の審理をやり直すと決めた。

 ブラジルは日本同様に3審制だが、汚職撲滅を目的に、2審で有罪判決を受ければ被選挙権を失う規定が10年に導入された。ルラ氏は最も先行した公判の2審で禁錮刑を受けたため、3選を目指した前回18年の大統領選には出馬できなかった。

 現在のところ、最高裁の決定はまだ確定していない。検察側が抗告しているためだ。そもそもファキン氏は無罪と認定したわけでなく、訴訟手続きの誤りを指摘して審理のやり直しを命じたに過ぎない。今回の最高裁の決定はファキン氏単独の決定によるもので、ファキン氏を除く最高裁の11人の合議体が検察側の異議申し立てを検討する見通しだ。

 ただ、大手テレビ・グロボによると、このうち少なくとも8人がファキン氏による決定を支持する意向を示唆しており、決定は確定する可能性が高い。このため、ブラジル政界では、ルラ氏が出馬する公算が大きくなったとの見方が広がっている。

 22年10月に行われる予定の次期大統領選を巡っては、右派から中道、左派勢力までイデオロギーを超えた「反ボルソナロ大連合」の候補擁立を模索する動きがある。ただ、マッケンジー大のロドリゴ・プランド教授(政治学)はボルソナロ氏について「国民の3割前後の『岩盤支持層』がある」と語る。ボルソナロ氏に対抗できるほど人気のある候補は、現在のところルラ氏以外にいない。今後の司法判断次第でルラ氏が立候補できるかどうかは流動的だが、再選の可能性が高いとみられていたボルソナロ氏を脅かす存在となりつつある。

貧困層に根強い人気のルラ氏

 ルラ氏は最高裁決定2日後の3月10日、最大都市サンパウロ郊外の労働組合で早速演説した。大統領就任前にこの労組でトップを務め、政治的な足場を築いた経緯がある。ルラ氏は出馬の意思について、「考える時間がない」と明言を避けたものの、有力紙フォーリャは「(演説は)選挙キャンペーンのようだった」と指摘。約1時間20分の演説全てを生中継したグロボの解説者が「事実上、大統領選は始まった」と伝えたほどだった。この後、地元メディアでは、ルラ氏が出馬するとの前提で報じられている。

 ブラジルでは新型コロナ流行の第2波が深刻化しており、各地の医療体制が崩壊している。連日、2000人前後の死者が確認され、累計死者数は27万人に達した。…

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サンパウロ特派員

2003年、毎日新聞社入社。千葉支局、東京社会部、福岡報道部を経て17年秋から現職。メキシコ以南の中南米地域を担当。