韓流パラダイム

50代以上の女性たちへ。韓国の「#MeToo」が求めるもの

堀山明子・外信部デスク
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ソウル市長選を控え、朴元淳前市長からセクハラ被害を受けた元秘書の記者会見。元秘書は左端の席で発言したが、姿や音声は流れず、字幕で中継された=2021年3月17日、「韓国女性の電話」のユーチューブ中継画面より撮影
ソウル市長選を控え、朴元淳前市長からセクハラ被害を受けた元秘書の記者会見。元秘書は左端の席で発言したが、姿や音声は流れず、字幕で中継された=2021年3月17日、「韓国女性の電話」のユーチューブ中継画面より撮影

 「手遅れになる前に、言いたいことを言わせてほしい」。ソウル市の朴元淳(パク・ウォンスン)前市長をセクハラ疑惑で刑事告発した20代の元秘書の女性が3月17日、カメラ撮影をしない条件で、初めて記者会見に臨んだ。

 昨年7月の告発翌日に朴前市長は自ら命を絶ち、その空白を埋めるソウル市長選は4月7日投開票される。選挙戦を控えた政治的に敏感な時期に差しかかって、何のための市長選かと、与野党候補に問いかけたのだ。

 元秘書は、与野党とも事件後に再発防止策を打ち出さない状況に対し「事件が何だったのか忘れられてもどかしい」ともらした。特に、与党「共に民主党」の女性候補の朴映宣(パク・ヨンソン)前中小ベンチャー企業相(61)に対しては、朴候補の選対本部長を務める女性運動出身の国会議員が元秘書の主張を受け止めず、2次被害を拡大させたとして、懲戒処分まで要求した。

 元秘書だけでなく、彼女を支援し、性暴力を告発する「#MeToo運動」に加わる20~40代女性たちが、政権を守ろうとして人権を後回しにする50代以上の民主化運動世代の女性運動家らに対し、不満を爆発させた。この日の会見はそれを韓国社会に知らしめた。ここ数年急速に発展している#MeToo運動は今、何を求めているのか。

「私は可哀そうな被害者ではない」

 ソウル市長選は、野党陣営は最大野党の「国民の力」から出馬した呉世勲(オ・セフン)候補(60)で候補一本化が成立し、事実上の保革一騎打ち。来年3月の大統領選の前哨戦として双方にとって負けられない戦いだ。呉候補は「民主党はセクハラ党」と攻撃材料にはしているが、元秘書の人権はほとんど言及しない。一方の民主党も進歩系の支持基盤結束に走り、亀裂を招きかねない朴前市長のセクハラ事件には積極的に触れない状況が続いている。

 3月17日の記者会見は、現場で取材できる記者は少人数に限り、会場のやりとりは動画投稿サイトのユーチューブで、約1時間半にわたりすべて中継された。元秘書が発言する際や質疑応答の部分は、カメラ撮影も音声もなく、発言内容が即座に字幕で流れた。

 「私が日常に戻るために必要なことは何か、長い間悩んできた結果、気づきました。(原状)回復に最も必要なのは、許すことです。許すには、何が過ちか明らかにする必要があります」。元秘書は涙ながらに訴え、被害事実の認定と2次被害に加わった関係者の謝罪や処罰を訴えた。

 また、元秘書を「被害者」ではなく「被害を訴える人」という呼称で疑念を提起してきた朴前市長の支持勢力に対し「もう消耗的な論争はやめていただきたい。(疑惑に反論する)防御権を放棄したのは先方です。 故人(前市長)が生きて司法手続きを踏んで防御権を行使していたら、事件は真相に近づいたでしょう」と語った。

 質疑応答では、民主党代表や朴候補は事件について党として反省の弁を述べたことがあると指摘した記者もいた。だが、元秘書は「何に謝罪したか分からない。謝る前に(再発防止の)措置がない」と反論。「私を『被害を訴える人』と呼んだ国会議員たちを朴候補が厳しく叱り、私に直接謝罪するよう言ってもらいたいです」と提起した。

 元秘書は、セクハラ被害を相談した女性団体や弁護士の影響を受けて踊らされているという見方が韓国メディアで報じられることは度々あった。しかし、会見の字幕を見る限り、元秘書はかなりテキパキと質問に答え、葛藤の経過も整理しながら自分の意見をしっかり述べている印象を受けた。

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堀山明子

外信部デスク

1967年生まれ。91年入社。静岡支局、夕刊編集部、政治部などを経て2004年4月からソウル支局特派員。北朝鮮核問題を巡る6カ国協議などを取材した。11年5月からロサンゼルス特派員。18年3月から3年間、ソウル支局長。