潮流・深層

邪道に足を踏み入れた米共和党 21世紀のジム・クロウ法

古本陽荘・北米総局長
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米南部ジョージア州議会で、改正投票法案に反対する同僚議員の演説に拍手を送る民主党のパーク・キャノン議員=3月25日、AP
米南部ジョージア州議会で、改正投票法案に反対する同僚議員の演説に拍手を送る民主党のパーク・キャノン議員=3月25日、AP

 「勝負に勝てない」と考えた場合、弱点を補おうと努力するのが王道だとすれば、勝てるようにルールを変更してしまうのは邪道だろう。選挙で勝てないと考えた政党が、自らに有利なように選挙法を改正してしまうのはその最たる例だ。

そうした法改正を進めようとしているのが昨年11月の米大統領選で敗れた共和党だ。州議会で多数派の州で次々と邪道的な手法を取り入れようとしている。

 「投票所で順番を待つ人への飲料水の提供を禁じるだって? どう考えたって投票しにくくするのが目的だ。冗談じゃない」。バイデン大統領は3月26日、記者団の前で色をなしてそう語った。南部ジョージア州で前日に成立した改正投票法について問われた際のことだ。さらに大統領声明を出し、この「非アメリカ的な法律」は「21世紀のジム・クロウ法だ」と指摘し、同州に法律を廃止するよう求めた。

 南北戦争の後、プランテーションで働いていた南部諸州の黒人奴隷は名目上、解放されたが、実際には黒人を隔離する政策が続いた。こうした人種差別を正当化した南部のさまざまな法律の総称がジム・クロウ法だ。公民権運動の高まりを受け、1964年に公民権法が成立し、すべてのジム・クロウ法は連邦レベルで廃止された。

 では、ジョージア州の改正投票法がなぜ、ジム・クロウ法に相当すると批判されているのか。この法律によって、同州では、投票する際に身分の確認がより厳格になる。不在者投票の請求ができる期間は短くなり、不在者投票の投票箱の設置場所や期間も制限された。

 こうした投票の「厳格化」は、昨年の米大統領選で「選挙結果は盗まれた」と主張したトランプ前大統領や支持者の主張を受けたものだ。いまだに大統領選で「大規模な不正行為があった」と信じる共和党支持者は少なくない。「不正を防ぐ」のを目的に、厳格な投票が行われるよう法律を改正したというのが共和党の主張だ。

 ところが、法改正により、不利益を被るのは黒人有権者である場合が多い。例えば、不在者投票の投票用紙に保証人の署名などを要求する州があるが、こうした手続きはかなり煩雑で、教育水準の低い有権者は投票を断念してしまう確率が高いと指摘されてきた。

 低所得者の多い地域では投票所の数が限られることが多く、何時間も投票を待つ必要がある。これから投票する人に飲食物を提供する行為は、厳密に言えば買収行為を促す恐れがあるが、何時間も待って投票せざるを得ない有権者から見れば、水も受け取れないのは「嫌がらせ」としか考えられない。

 ジョージア州では、当初の改正法案には、日曜日に不在者投票を行う行為を規制する条項があったがあまりに反発が強く、削除された。南部の黒人教会では、信仰と政治は密接に結びついている。生活の向上のためには、投票に行って社会を変える必要があるという理由からだ。

 南部の黒人は信仰のあついキリスト教徒が多い。日曜日に教会に行った後、そのまま投票所に向かう「ソウルズ・トゥー・ザ・ポールズ」と呼ばれる運動によって黒人の投票率を高める努力がなされてきた。当初の法案が、こうした黒人の習慣を狙い撃ちしようとしたのは明白だった。

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古本陽荘

北米総局長

1969年生まれ。97年毎日新聞入社。横浜支局、政治部、外信部を経て2018年12月から北米総局長(ワシントン)