失敗に学ばないコロナ対策 まん延防止措置を踏まえて

田中秀明・明治大学公共政策大学院教授
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田中秀明氏=宮武祐希撮影
田中秀明氏=宮武祐希撮影

 4月1日、政府は、5日から5月5日までの1カ月間、大阪府・兵庫県・宮城県に「まん延防止等重点措置」(まん延防止措置)を適用することを決定した。

 関西地域については、緊急事態宣言が解除されてからわずか1カ月で、内容に相違があるとはいえ、感染抑制のための法的な措置が導入されたことになる。

 12日から東京都や京都府、沖縄県にもまん延防止措置が適用される。いくつかの都道府県で新規感染者数が過去最高を記録しており、「第4波」の到来が迫っている。

 昨年の第1波への対応は、初めてでもあり試行錯誤だったとしても、昨年夏以降の政府や地方自治体の対応は、これまでの経験から十分に学んだものとは言えない。日本の政治や行政に内在する根本的な問題を探る。

増幅する感染の波

 新型コロナウイルスの感染は、第1波(ピークは2020年4月下旬)、第2波(ピークは2020年8月上旬)、第3波(ピークは2021年1月半ば)と、新しくなるたびに拡大している。

 例えば、第3波の全国の重症者の数はピーク時に1000人を超え、それは第1波のピーク(4月30日、328人)の3倍超である。これら三つの波の端緒にはいずれも連休があり、人々の移動や行動の活発化が背景にある。

 人々の気の緩みや自粛疲れから来るものであり、それほど重症化しない若者の行動がある。

 第2波の際には、日本医師会の中川俊男会長は、「我慢の4連休としていただけないでしょうか」と発言し、危機感を表明している(「日経新聞」2020年7月25日)。

 7月22日からは、コロナで打撃を受けた観光業への支援策「GoToトラベル」が、東京都民と都内への旅行を対象外として実施された。しかも、当初感染が収まってから実施するとしていたが、それを見極めないまま「前倒し」実施された。10月1日以降、東京発着の旅行も支援の対象となった。

 菅義偉首相は、繰り返し、GoToが直接感染を拡大させた証拠はないと述べたが、人の移動がウイルス感染を拡大させる原因であることを考えれば、「GoToが感染を拡大させなかった証拠はない」というのが正しい見方ではないか。

 さて、昨年夏以降を振り返ると、新規感染者数(全国)は、 8月第1週をピークとして減少が続いた後、ほぼ横ばいであったものの10月以降微増傾向が続いた。

 こうした中、11月9日に開かれた新型コロナウイルス感染症対策分科会(専門家などで構成)が、急速な感染拡大を抑えるため、「緊急提言:最近の感染状況を踏まえた、より一層の対策強化について」を発表した。

 その後も分科会は、感染拡大を沈静化させるための政府への提言を繰り返した。しかし、感染者数は増えて、12月半ば以降急増する。12月14日には、GoToトラベルが全国一斉に停止されると発表した。

 年末の12月25日の記者会見で菅首相は、2回目の緊急事態宣言の発出に否定的な態度を示し、1月1日の年頭所感でも特に触れていなかった。にもかかわらず、4日になって急に緊急事態宣言の検討が表明された。

 2日に小池百合子東京都知事が西村康稔経済再生担当相に緊急事態宣言を要請したことが直接の経緯ではあるが、12月31日には都内の新規感染者が1337人と過去最高を更新しており、国、なかんずく菅首相の認識は甘く、国の対応は遅かったと言わざるを得ない。

 1月8日にようやく2回目の緊急事態宣言が発出され、首都圏(1都3県)、栃木、岐阜、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡が対象となった。

 2月13日には、新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正法案が施行され、まん延防止措置や事業者が営業時間の変更などの命令に従わない場合には過料を科すといった内容が規定された。

 緊急事態宣言の期間中は感染者は徐々に減少し、2月8日に栃木が解除、3月1日に首都圏以外の2府4県も解除、最終的には、3月21日に首都圏も解除される。

 この間、厚生労働省のアドバイザリーボードは、「全国の新規感染者数は、報告日ベースでは、1月中旬以降(発症日ベースでは、1月上旬以降)減少が継続、直近の1週間では10万人あたり約5人となっているが、2月中旬以降減少スピードが鈍化しており、下げ止まる可能性やリバウンドに留意が必要」(3月3日)と分析している。効果のない宣言を継続していても意味がないが、解除後の対策や方針は十分とは言えない。

 新型コロナウイルス感染症対策本部(第59回、4月1日)では、3月31日に開催された厚労省アドバイザリーボードの評価が示されているが、そこでは、「緊急事態宣言が解除されたが、大都市圏では関西で感染が再拡大し、東京でも新規感染者数の増加が続いている。また、今般の緊急事態措置区域以外の地域でも、宮城・山形、沖縄で感染者が急増している。感染が増加している地域においては、効果的な感染抑制のための取り組みが必要」と指摘され、さらに変異株への対応が必要と強調されている。

 そして、4月1日に大阪、兵庫、宮城の3府県へのまん延防止措置適用を決定した。3日、大阪府の感染者は666人と3日時点で過去最高になり、人口10万人当たりの直近7日間の新規陽性者数は39.2人となり、政府の分科会が最も深刻なステージ4(感染爆発)の目安とする25人を大きく上回った。

 早晩東京などもそうした状況になる可能性がある。第4波の到来が目前に迫っている。

失敗の本質

 コロナ対策は欧米でも失敗している。例えば英国では、変異種の拡大から1月に3回目のロックダウン(都市封鎖)が実施され、生活必需品を扱う店舗以外の商店の営業が禁止されるなどの措置が取られている。

 他方、台湾やニュージーランドなど、感染を抑え込んでいる国もある。致死率などの指標で、日本は、欧米よりは優れているが、アジア諸国の中では劣っている。

 ニッセイ基礎研究所は、人口当たりの感染者数、致死率、国民総生産(GDP)損失などの指標を使って、コロナ対応に成功している世界50カ国のランキングを発表している(同研究所ホームページ「コロナ禍を上手く乗り切っているのはどの国か?-50か国ランキング(2021年2月更新版)」を参照)。

 これによると、2021年2月時点で、日本は第14位である。1位台湾、2位ニュージーランド、3位シンガポール、13位韓国、29位米国、46位英国などとなっている。

 興味深いことは、2020年10月時点のランキングでは、日本は第4位だったことだ。国によって医療体制などの相違があり、単純な比較はできないが(評価基準のバイアスもある)、日本の順位の低下は昨年末以降の対応の失敗を物語っている。

 感染症対策の根本的な難しさは、「経済活動と感染防止の両立」にある。問題は、「両立」の意味である。筆者は、同じ時点において両立を図ることはできないと考えている。

 台湾など成功している国に共通するのは、最初に、迅速かつ強力な感染拡大防止措置をとったことである。そうすれば、短期間で抑え込むことが可能になり、その後は経済活動を再開できる。新型コロナウイルスの潜伏期間は最長で2週間程度と言われていることから、全国民が2週間一歩も外に出なければ、感染は収束する。つまり、両立には、優先順位が必要なのだ。

 第3波への対応が失敗した理由の第1は、感染拡大の初期において、迅速かつ強力な措置がとられなかったことである。先に述べたように、昨年11月に、分科会が強い対策を政府に求めたものの、GoToトラベルの停止は遅くなった。11月25日、西村大臣は「勝負の3週間」と銘打って、飲食店に対する営業時間の時短措置などの緊急対策を実施したものの、感染者数は増大し、効果は乏しかった。

 2回目の緊急事態宣言は1カ月以上遅かったと言えるだろう。そして、緊急事態宣言も、当初感染者数は低下したものの、2カ月半もだらだら続き効果を失った。

 こうした対応の遅さは、菅首相らが、衆院選を意識して…

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田中秀明

明治大学公共政策大学院教授

 1960年生まれ。85年大蔵省(現財務省)入省。オーストラリア国立大学客員研究員、一橋大学経済研究所准教授、内閣府参事官などを経て、2012年より現職。専門は財政・ガバナンス論。著書に「官僚たちの冬 霞が関復活の処方箋」など。