
「人々の怒りが政権を裁いた」。韓国の有力紙、朝鮮日報が今月8日付朝刊1面トップに掲げた見出しは、この国の「今」をなんだかとてもうまく言い表している気がして、しばし見つめてしまった。
見出しは、前日の7日に投開票された首都ソウルと、第2の都市・釜山における市長選の結果を評したもの。来年3月にある大統領選の「前哨戦」と位置づけられていたが、いずれも文在寅(ムン・ジェイン)大統領を支える進歩系与党「共に民主党」の候補が、保守系の最大野党「国民の力」の候補に惨敗した。
両市長選は、「共に民主党」の前市長によるセクハラ疑惑で生じたもので、元々、与党候補には逆風が吹いていた。とはいえ、惨敗に終わったのは、市民の関心がとても高い不動産問題での失策が相次いだからだ。
残り任期が1年余りとなった文政権には大きな打撃となり、レームダック(死に体)化が加速しそうだ。生活に身近な問題で、市民の大きな怒りや失望を招いた時、その政権はどんどんと力を失っていく。もう十数年も前になるが、ちょうど同じく春も盛りの頃、日本で、そんな現場を目の当たりにした。
「政権のゆるみ」が露呈
文氏が2017年に大統領に就任してからの約4年間で、ソウル市内のマンション価格は、78%も値上がりした――。市民団体「経済正義実践市民連合」は今年3月、不動産の異常な高騰ぶりを示す調査結果を明らかにした。投資が、さらなる投資を呼ぶ「バブル」の様相。マイホーム購入がいかに難しくなっているかを如実に示すデータだ。しかも、歯止めがかかりそうな気配すら見えてこない。
時をほぼ同じくして、不動産政策を担当する韓国土地住宅公社(LH)の職員がインサイダー情報をもとにして、値上がりが期待される土地を事前に購入していた疑惑が浮上。さらには青瓦台(大統領府)で、経済政策を担当する金尚祚(キム・サンジョ)政策室長が、賃料の値上げ幅を5%までに制限する改正法が施行される直前に、自分が所有する住宅の賃料を約14%引き上げて、借り主との契約を更新していたことが明らかになり更迭された。
今を頑張って生きれば、より良い未来が待っているかもしれない。そんな市井の人々の切なる思いを、政権側にいる人たちの「腐敗」は、見事なまでに逆なでするものだったのだろう。文大統領はソウル、釜山市長選で与党候補が惨敗した翌日の8日、報道官を通じて、「国民の叱責を厳重に受け止めている。さらに低姿勢で、より重い責任感を持って国政にあたる」とわびるしかなかった。
韓国の大統領任期は1期5年で、再選はない。実は文大統領は各種の世論調査で、支持率が30%前半と過去最低を更新しているが、たとえば、進歩系の盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領、保守系の朴槿恵(パク・クネ)前大統領の任期まで残り1年余りの時期はいずれも10%台。末期に向かう政権のレームダック化は、どの政権も避けることができないことを考えれば、まだ踏みとどまっているとも言える。
しかし、今後の支持率の下落はかなり速いだろうなという気がする。なぜなら、ソウル、釜山両市長選での与党候補の「負けぶり」が悪すぎるからだ。
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