
本邦主要紙は、米東部時間4月28日にバイデン大統領が行った「施政方針演説」の内容を一斉に報じた。例えば、時事通信は同大統領が「就任100日で米国は再び動きだした」と宣言し、習近平中国国家主席との電話会談で「紛争を始めるのではなく防ぐために、インド太平洋で強力な軍事プレゼンスを維持する」趣旨を伝えたなどと報じている。
だが、この演説、およそ格調の高い名演説とは言い難いものだった。CNNの世論調査でも、21世紀以降の歴代大統領の最初の対議会演説としては最低の評価(51%)である。2001年ブッシュ大統領の66%や09年オバマ大統領の68%には遠く及ばず、17年トランプ演説(57%)も下回っている。なぜこんなことになったのだろうか。
このバイデン演説については、中国について大統領が言うべきことを言った部分と、あえて言及を避けたようにも思える部分があり、これに対する批判もある。
されば今回は同演説の外交政策部分を中心に、過去の例とも比較しつつ、特に対中政策につき「深読み」してみたい。毎度のことながら、以下はあくまで筆者の個人的分析である。
施政方針演説か、一般教書か
日本のメディアが本演説を「一般教書」と訳さなかったことは正しいが、「施政方針演説」としたのはいかがなものか。英語ではAddress to a Joint Session of Congressだが、以前はto the Joint Sessionといった表記もあった。確かに、日本の「所信表明」、「施政方針」演説に似てはいるが、より正確には「両院合同会議での演説」とでも訳すべきだろう。
これとは異なり、「一般教書」の英語の正式名はState of the Union address、米国の新聞等ではSOTUとも略される。米国憲法上、議会に出席する権利を持たない大統領が文書で議会にメッセージを送ったことが始まりらしい。直訳すれば「連邦の状態」演説だが、従来日本では「一般教書」、「年頭教書」などと呼ばれてきた。
「一般教書」とは、米国大統領が就任2年目以降、上下両院合同会議の場で行う演説だ。しかし、誤解を恐れずに言えば、この種の演説は「毎年1回、米国の三権の長が連邦議事堂に集まり、大統領の国政演説を聞いて、多様性に富む米連邦の共通の価値観や一体感を皆で共有する」数少ない機会だ。…
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キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
1953年生まれ。外務省日米安全保障条約課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを経て2005年に退職。立命館大客員教授、外交政策研究所代表なども務める。近著に「AI時代の新・地政学」。フェイスブック「Tokyo Trilogy」で発信も。