ミレニアル世代の死生観はどこから来るのか

横江公美・東洋大学国際学部教授
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横江公美氏=吉田航太撮影
横江公美氏=吉田航太撮影

 ミレニアル世代とそれ以前の死生観が正面衝突する歌が一世を風靡(ふうび)した。YOASOBIが歌う「夜に駆ける」(作詞作曲、Ayase)だ。この歌は「繋(つな)いだ手を離さないでよ 二人今、夜に駆け出していく」と終わる。仲良しの恋人同士の歌にも聞こえる。

 この歌は「タナトスの誘惑」(作・星野舞夜)という短い小説をもとにしている。舞台は、4回目の自殺を試みる女性とそれを止める彼氏がいる屋上だ。

 小説の中で彼は「世の中には2種類の人間がいる」と語る。一方は生に対する欲動――「エロス」に支配される人間で、もう一方は死に対する欲動――「タナトス」に支配される人間だ。多くの人は前者であるが、4回目の自殺を図る彼女は「タナトス」に支配される後者だ。小説はタナトスの勝利で終わる。つまり、2人は屋上から夜に駆け出す。手をつないで自殺する。

 「今から死ぬ」という連絡は、助けてほしいという心の表れだとされている。そんな連絡が来たら助けることに全力を注ぐのがこれまでの価値観だった。この小説はその価値観を覆す。

 彼も当初は、死のうとする時に連絡をくれる彼女は、本当は死にたくないのだと思っていた。だが、死にたいと言う彼女に「僕も死にたいよ」と言ってしまう。その言葉を聞いた彼女は、笑みを浮かべる。自殺しようと屋上に行った時に彼に連絡するのは、自殺を止めてもらうためではなく、一緒に死んでほしいからだった。彼はそれに気づき、2人で手をとって夜の空に駆けて行く。

 そもそも、自殺をしようとする彼女を彼が止めたのが出会いだった。そこで恋に落ち、3回の自殺未遂を経て4回目で事切れる。小説も短いが、この2人の恋愛が長いとも思えない。死ぬために出会ったかのような設定だ。

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横江公美

東洋大学国際学部教授

 1965年生まれ。VOTEジャパン(株)社長、米国のシンクタンク「ヘリテージ財団」上級研究員を経て、17年より現職。著書に「隠れトランプのアメリカ」「日本にオバマは生まれるか」「アメリカのシンクタンク」など。