潮流・深層

議会に声が届かない70万人 米首都州昇格は実現するか

古本陽荘・北米総局長
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ワシントンを州に格上げする法案の採決を前に、ペロシ下院議長(中央)らと記者会見するノートン代議員(右)=ワシントンで2021年4月21日、AP
ワシントンを州に格上げする法案の採決を前に、ペロシ下院議長(中央)らと記者会見するノートン代議員(右)=ワシントンで2021年4月21日、AP

 トランプ前米大統領の下、米国の民主主義に対する国内外の信頼は揺らいだ。米国が人種間の平等や法の支配という民主主義の基本的な規範を本当に重んじているのか疑問が生じた。

 おおむね公正に行われたと裁判所も判断した昨年11月の米大統領選で、トランプ氏は「大規模な不正があった」と主張し、世論調査を見る限り、いまだに共和党支持者の過半数がそれを信じている。

 ただ、米国の民主主義の制度的欠陥をすべてトランプ氏の責任にするわけにはいかない。選挙制度に関しては、それ以前も矛盾だらけだったからだ。

 例えば、1票の格差。連邦議会の上院は各州から2人ずつ選出されると憲法で規定されている。国勢調査局の2020年調査で人口が全米最大の西部カリフォルニア州は3953万8223人の代表として、上院議員が2人選ばれる。一方、最少の西部ワイオミング州は57万6851人に上院議員2人が割り振られている。議員1人あたりの人口は68倍以上という計算だ。

 もちろん、米国は、国家的な存在であるステート(州)が集まった合衆国で、憲法でそう決められている以上、違憲性はない。だが、話をすると多くの米国人は「なんか変」と口にする。

 さらに、選挙制度の矛盾としてよく指摘されるのが、州ではない米国領土における代議制の問題だ。連邦議会に上院議員、下院議員を送り出しているのは基本的には州だけ。米領グアムやアメリカン・サモアなどは下院議員に相当する代議員(Delegate)を下院に出している。だが、代議員は委員会では採決に参加できるが、最終意思決定の場である下院本会議の採決では票を投じることができない。

 そして、住民の声が国政に反映されない最大の地域が、首都ワシントン(コロンビア特別区)だ。DCとも呼ばれている。ワシントンの人口は、68万9545人。ワイオミングや東部バーモント州(64万3077人)より多い。こうした小さな州でさえ、連邦議会に上院議員2人、下院議員1人を送り出しているが、ワシントンは代議員1人を下院に出しているだけだ。

 当然、ワシントンの住民は自分たちの声を国家の意思決定に反映できないことに不満を持つ。ワシントンに登録されている車の白地のナンバープレートには、「TAXATION WITHOUT REPRESENTATION」(納税しても代表なし)という青い文字が目立つように記されている。静かな抗議だ。

 これまでも何度か改革の動きがあったが成功しなかった。そんななか、下院は4月22日、ワシントンを州に格上げする法案を与党・民主党の賛成多数で可決した。

 「ワシントン…

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古本陽荘

北米総局長

1969年生まれ。97年毎日新聞入社。横浜支局、政治部、外信部を経て2018年12月から北米総局長(ワシントン)