日本版マグニツキー法 日中関係悪化の懸念より普遍的価値

中谷元・元防衛相
  • 文字
  • 印刷
中谷元氏=岡本同世撮影
中谷元氏=岡本同世撮影

人権外交のツールすらない

 中国の新疆ウイグル自治区での少数民族弾圧、香港での民主化勢力の弾圧、ミャンマーの軍部による民衆弾圧など深刻な人権侵害が発生している。人権は人類の普遍的価値だ。国際社会で解決すべき問題であり、一国の内政問題にとどまるものではない。

 当然、日本も中国に対して説明を求めたり、懸念や憂慮を表明したりしている。先日の日米首脳会談でも香港や新疆ウイグル自治区の状況に対して深刻な懸念を表明し、ミャンマーについて民主的な政治体制の早期回復を求めることで合意した。

 しかし、欧州連合(EU)や米国が中国に対しウイグル問題の是正などを求めて制裁を発動する中、日本は行動で示していない。「人権問題を理由に制裁をする法律がない」というのが理由だが、それならば法律を作ればいいのではないか。外国での人権侵害に制裁を科せるようにする「日本版マグニツキー法(人権侵害制裁法)」を制定すべきだ。

 主要7カ国(G7)のうち、人権侵害制裁法がないのは日本だけだ。制裁は大きな外交カードであり、抑止力につながる。そのようなツールすら持たないというのは問題ではないか。

なぜ日本だけないのか――思考停止する外務省

 米国はバイデン政権になり、人権外交を重視している。さらにEUやカナダ、英国などとともに連携を強め、自由、人権、法の支配、そして自由で公正な経済秩序を含む普遍的価値への脅威に対抗しようとしている。

 そのような国際社会の中で、人権を守ることに行動を起こせない日本は国際的な信用を失う恐れがある。主要国が経済制裁をする中、日本だけが制裁をしなければ「汚い資金(dirty money)が集まる日本」というレッテルを貼られてしまう危険性もあるだろう。

 なぜ、日本だけ人権侵害制裁法がないのか。日本は戦争を経験し、他国に脅威を与えたり、強硬な態度をとったりしてはいけないという思いが強くある。それゆえ、他国の問題に口を出すことに慎重だ。国連中心主義で、対話と協力を重視してきた。

 だが、制裁は武力行使ではない。民族対立などの複雑な事情があったり、中国のような大国が相手だったりするなかでは、対話だけで人権回復の道筋をつけるのは難しいことがある。事態を動かすには、ある程度の強制力は必要だ。さまざまな形で働きかけをしていくことは当然だ。

 1948年に作られた「ジェノサイド(大量虐殺)」を禁止するジェノサイド条約というものがある。…

この記事は有料記事です。

残り1715文字(全文2725文字)

中谷元

元防衛相

1957年生まれ。90年衆院初当選。防衛庁長官、防衛相などを歴任。自民党憲法改正推進本部長特別補佐。衆院高知1区、当選10回。自民党。