ウェストエンドから

二つのナショナリズムのうねり 英国の二大政党制の行方は?

服部正法・欧州総局長
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スコットランド自治政府によってコロナ対策の外出規制が緩和され、にぎわうグラスゴーの繁華街=2021年4月28日、服部正法撮影
スコットランド自治政府によってコロナ対策の外出規制が緩和され、にぎわうグラスゴーの繁華街=2021年4月28日、服部正法撮影

 英国のスコットランドで5月6日、自治議会選が行われ、スコットランドの英国からの独立を目指す独立派政党が過半数を獲得したことは、国内外を問わず大きく報じられた。

 一方、国際的にはそれほど耳目を集めなかったが、大きな意味を持つ他の二つの選挙結果が同時に出た。同日に行われたイングランドでの地方議会選と英下院補欠選で、2大政党の一つ、国政最大野党・労働党が惨敗を喫したのだ。

 別々の地方で行われた選挙だが、いずれの結果ともナショナリズムの問題と密接に関係していると私は思っている。スコティッシュ・ナショナリズム(スコットランド人の民族主義・国家主義)とイングリッシュ・ナショナリズム(イングランド人の民族主義・国家主義)。まったく異なるナショナリズムだが、この「うねり」によって党勢後退を余儀なくさせられているのは、ともに労働党だ。今回の選挙結果は英国伝統の「2大政党制」の形にどんな影響を与えるだろうか。

スコットランド人の中で高まる「自決権」回復願望

 まず、スコットランド議会選を振り返ってみよう。

 英国を形成する連合王国の一つ、スコットランドでは1999年に自治議会が設立され、英議会が広範な権限を移譲。自治議会の与党がその役割を担う自治政府が教育や保健医療など生活に直結した分野の行政を行っている。

 議会は小選挙区73、比例代表56の定数129。改選前61議席で少数与党政権を運営してきた独立志向の地域政党「スコットランド民族党」(SNP)が今回の選挙では過半数に1議席及ばない64議席を獲得して、引き続き第1党となった。また、同じく独立を目指す環境政党「緑の党」も改選前の5議席から8議席へと伸ばし、両党を合わせて過半数となった。

 この結果を受け、SNP党首のスタージョン自治政府首相は「これは国(スコットランド)の意思だ」と述べて、独立の是非を問う住民投票の実施が支持されたとの認識を示し、新型コロナウイルス感染の終息後、2023年末ごろまでの住民投票実施を目指している。

 なぜ、スコットランドで独立の機運が高まっているのか。

 投票直前にスコットランドの最大都市グラスゴーとその周辺の町を歩き、大勢の市民に直接尋ねてみると、スコットランド人による自決権の回復を求める人が多いという印象を受けた。

 「ロンドン(の英政府)によってではなく、自分たちで(政策を)決めたい」(グラスゴー大学の女子学生、カーラ・マクリーンさん=21歳)、「自分たちの未来は自分たちで決めたい。ウェストミンスター(英議会・政府)は遠く、我々(の生活)に関係ない」(フラワーデザイナーのジェマさん=41歳)という声が頻繁に聞こえてくる。

 彼らが「自分たちで決めたい」と考えるのは、「決められる」という自信の裏付けがあるようなのだ。「もう長いことスコットランドは(国政与党の)保守党の支配下にない。環境に配慮した、より平等な社会を作っていきたい。SNPのコロナ対応は英政府と比べると拙速でなく慎重で、とても良い」(マクリーンさん)「テレビで語りかけるスタージョン氏のコロナ対応の説明は正直で良い。(英政府の)ジョンソン首相は正直ではない」(ジェマさん)

 北欧の福祉国家をリードしてきた社会民主主義政党に政策が似たSNPは、07年から与党として自治政府を担う。1年前、スコットランド中部のスターリングで取材をした際にも、SNPと英政府を担う中道右派の保守党との政治路線の違いに触れて「スコットランドとイングランドでは、政治的なカルチャーが今や大きくかけ離れてしまっている」という若者の声を聞いた。

 独立を目指す左派政党SNPによる長期政権運営への好評価、それに伴うイングランドとの政治的雰囲気の違いへの意識などが相乗効果となって、住民の独立志向をより高めているとも言えそうだ。

コロナ禍、ブレグジットも独立機運に「追い風」に

 そして、この政権への信頼性は、最近のコロナ禍への対応を巡ってより強化されてもいる。店内でのマスク着用義務化を英政府の決定に先駆けて実施するなどしてきた自治政府独自の対応や、頻繁にテレビを通じて住民に説明するスタージョン氏の語り口などが、英政府に比べてポジティブに受け止められているのだ。

 こういった背景に加え、ブレグジット(英国の欧州連合=EU=からの離脱)も独立への「追い風」となっている。グラスゴーの工業デザイナー、ニール・シェパードさん(50)は以前独立に反対だったが、ブレグジットによって考えが変わりつつある。まだ「独立賛成」とまでは言い切れないが、「EUの中にスコットランドはあるべきだ」との思いから、「独立した後にEU再加盟」を目指すSNPや緑の党の主張に傾き、今回の選挙では両党のどちらかに入れるつもりだと投票前に私に明かした。

 16年のEU離脱の賛否を問う国民投票では、英国全体では過半数の約52%がEU離脱を支持したが、スコットランドでは逆に約62%がEU残留を支持した。14年の住民投票ではスコットランド独立に反対し、16年の国民投票ではEU残留に投じた「ユニオニスト・リメイナー」(英国との統一維持とEU残留を支持する有権者)がシェパードさんのように、今回の議会選で独立派の政党に投じたかもしれない。そして次にスコットランド独立を問う住民投票が行われた場合、今度は独立支持に転じる可能性が指摘されている。

SNPに支持をくら替えする労働党支持者

 だが、SNPの党勢がこれほど拡大したのはそれほど昔のことではない。

 スコットランドは長い間、労働党が強い土地柄だった。18世紀からの産業革命を経て、スコットランドは重工業が活発化し、グラスゴーなどの工業地帯は大英帝国の勢力拡大を屋台骨として支えた。

 こういった中、1920年代になると、多くの労働者らが労働者の権利保護に熱心な新興政党の労働党の支持に回り、グラスゴー周辺は労働党の金城湯池となった。それ以前の「保守党VS自由党」の2大政党体制が今も続く「保守党VS労働党」へと変わった要因の一つは、スコットランドで労働党が進歩的な自由党を圧倒したことと言っても過言ではない。

 このスコットランドの労働党支持者に近年、変化が生まれている。自治議会・政府が置かれる行政都市エディンバラ在住で、スコットランドにおける世論調査分析の専門家として著名なマーク・ディフリー氏は、私の取材に「SNPの近年の隆盛は、多くの労働党支持者がSNP支持に移ったためだ。彼ら(労働党支持者)とSNPは独立支持で一致している」と言う。

 実際に町で中年以上の人に話を聞くと、「以前はずっと労働党支持だったが、独立支持だからSNPか緑の党に票を入れる」(グラスゴー南郊ギフノックで話を聞いた元教師のケネス・エルダーズさん)という意見を頻繁に聞く。

 国政の最大野党である労働党はスコットランド独立に反対だ。労働党は元々の党支持者の間に強まってきた独立を求めるナショナリズム意識をすくいきれず、後退している印象だ。

イングランド北部に渦巻く不満と移民という「記…

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服部正法

欧州総局長

1970年生まれ。99年、毎日新聞入社。奈良支局、大阪社会部、大津支局などを経て、2012年4月~16年3月、ヨハネスブルク支局長、アフリカ特派員として49カ国を担当する。19年4月から現職。著書に「ジハード大陸:テロ最前線のアフリカを行く」(白水社)。