
5月21日、訪米中の文在寅韓国大統領はホワイトハウスでバイデン米大統領と会談した。菅義偉首相の訪米から遅れること1カ月、文大統領は「結果はこの上なく良かった。期待以上だった」「(米側は)非核化交渉を優先する姿勢を示した」「北朝鮮に対話の準備ができているとのメッセージを送った」などと訪米の成果を強調している。
これに対し、日本での論評は相変わらず手厳しい。例えば「バイデンは韓国の中国包囲網引き込みに成功せず」「期待したワクチン確保に失敗した文在寅」「北朝鮮への対応には両者の思惑にずれ」「北朝鮮の非核化に温度差」「結局一番得したのは北朝鮮?」といった具合。いつからかくも嫌韓になったか知らないが、筆者はどちらも信用しない。
この種の共同声明の評価は、感情論を排し、丹念に公開情報の行間を読むことが大事である。されば今回は、米韓共同声明の政治関係部分を中心に、4月の日米共同声明での書きぶりとも比較しながら、対北朝鮮、対中政策について「深読み」してみたい。毎度のことながら、以下はあくまで筆者の個人的分析である。
米韓同盟と日米同盟
今回の米韓共同声明は米韓同盟の歴史で始まる。「70年以上前、米韓同盟は戦場で構築され、我々は共に戦争を戦った。」<Over seventy years ago, the alliance between the United States and the Republic of Korea was forged on the battlefield, as we stood shoulder-to- shoulder in war.>当然ながら、この種の表現は日米同盟では見当たらない。
首脳会談の直前、バイデン大統領は朝鮮戦争の英雄だった退役米陸軍大佐に対する名誉勲章授与式に文大統領を招待している。一部にはこれを「バイデン大統領流の痛烈な皮肉」とする向きもあるが、共同声明冒頭部分と合わせて読めば、文大統領は今回、米側の「血で結ばれた米韓同盟」論に乗ったと見るべきだろう。
米国の防衛義務
共同声明では、双方が「韓国防衛への相互コミットメントを再確認し」「米国はあらゆる能力を用いた拡大抑止のコミットメントを確認する」<reaffirm their mutual commitment to the defense of the Republic of Korea.><affirms the U.S. commitment to provide extended deterrence using its full range of capabilities.>とした。この点は基本的に日本と変わらない。
韓国ミサイル開発ガイドラインの撤廃
軍事面で最も重要な合意がこれだ。共同声明はこう述べている。「韓国は米側との協議を経て『改訂ミサイルガイドライン』の終了を発表し、両国の大統領はこの決定をアクノレッジした」<Following consultations with the United States, the ROK announces the termination of its Revised Missile Guidelines, and the Presidents acknowledged the decision.>
ミサイルガイドラインとは、日本ではあまり知られていないが、1979年に始まった韓国のミサイル開発に対する制限であり、…
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キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
1953年生まれ。外務省日米安全保障条約課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを経て2005年に退職。立命館大客員教授、外交政策研究所代表なども務める。近著に「AI時代の新・地政学」。フェイスブック「Tokyo Trilogy」で発信も。