潮流・深層

バイデン米大統領は「変革的大統領」として歴史に名を残せるか

古本陽荘・北米総局長
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戦没者追悼記念日に演説するバイデン米大統領=ワシントン近郊のアーリントン国立墓地で2021年5月31日、AP
戦没者追悼記念日に演説するバイデン米大統領=ワシントン近郊のアーリントン国立墓地で2021年5月31日、AP

 政治指導者がどのような政治を行うかを就任前に予測するのは難しい。実際にトップに立ってから予想外の行動に出ることは珍しくない。バイデン米大統領はその典型例だと指摘されるようになった。

 2020年米大統領選でトランプ大統領(当時)の再選阻止を最優先した民主党は、党内で穏健派と急進左派との間に深刻な亀裂を抱えていた。その亀裂を乗り越え、「打倒トランプ」で党を束ねる候補として選ばれたのが、政治経験が豊富なバイデン氏だった。熱狂的なバイデン支持者はほとんどいなかったのが実情だ。

 大統領当選時に77歳、就任時に78歳と高齢で、バイデン氏本人も「若い世代への橋渡しである」と語っていた。ところが、そのバイデン氏は就任以降、米国社会の大変革を目指す姿勢を強調するようになった。

 「バイデン氏の政治経歴や近年の民主党の動向を考えると、予想をはるかに超えることをやろうとしている」と語るのは、第32代大統領のフランクリン・D・ルーズベルト(在任1933~45年)の「ニューディール政策」研究の第一人者であるカリフォルニア大デービス校のエリック・ローチウェイ卓越教授(歴史学)だ。

 バイデン氏は就任時、ホワイトハウスの執務室の自らの机の正面に、大きなルーズベルト大統領の肖像画を掲げた。バイデン氏やスタッフは、ルーズベルト政権の政策を入念に研究したと複数の米メディアが報じている。

 ローチウェイ教授は「これまでのところ、バイデン政権とルーズベルト政権とは印象深いほどよく似ている」と語る。そして、「もし、バイデン氏が現在提案されているインフラ投資に関わる米国雇用計画法案を成立させることができれば、ルーズベルトのような変革的(トランスフォーマティブ)大統領として記憶されることになるだろう」と予測する。

欠かせない国家の役割

 バイデン政権の掲げてきた経済政策を振り返ってみよう。新型コロナウイルスの感染拡大がどこまで続くか見通せないなか、まずは総額1兆9000億ドル(約200兆円)規模の経済対策法(米国救済計画)を3月11日に成立させた。景気浮揚のため1人あたり1400ドル(約15万円)を給付したり、失業給付金を週300ドル上乗せしたりなどで、中低所得者の支援を行った。

 上院(定数100)での採決は、与党・民主党の50人全員が賛成した一方、野党・共和党は「新型コロナ対策とは直接関係ない項目が含まれている」などと主張し、出席した49議員全員が反対に回った。

 その後、応急措置であるコロナ対策を超えた中長期的な経済計画を発表。8年間で約2兆ドルをインフラ整備などに充てる「米国雇用計画」、10年間で約1兆8000億ドルを「人への投資」である子育てや教育の拡充に使う「米国家族計画」を相次いで掲げた。仮に三つの計画がすべて実現するとすれば総額6兆ドル近い巨大な規模になる。

 ローチウェイ教授によると、「大きな政府」路線と言われた民主党政権であっても、これまでは財政健全化を重視し、経済は市場に委ねるという強い傾向があった。しかし、「政府は介入しすぎないようにしようという傾向がバイデン政権(発足後)の最初の数カ月ですべて吹き飛んでしまった」と解説する。

 当然、その背景にある一番の要因は、新型コロナの感染拡大だ。新型コロナは、経済活動を一律に傷めたわけではなかった。失業したのは低所得者に偏っており、改めて米国の格差やゆがんだ社会構造に焦点があたった。

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古本陽荘

北米総局長

1969年生まれ。97年毎日新聞入社。横浜支局、政治部、外信部を経て2018年12月から北米総局長(ワシントン)