近く、遠く

性的少数者の権利が保障されない韓国 差別の背景にあるものは

日下部元美・外信部記者
  • 文字
  • 印刷
性的少数者を含む包括的差別禁止法制定のための署名運動を行った学生らが韓国国会で開いた記者会見=ソウル市で2020年7月16日、QUV提供
性的少数者を含む包括的差別禁止法制定のための署名運動を行った学生らが韓国国会で開いた記者会見=ソウル市で2020年7月16日、QUV提供

 日本でLGBTなど性的少数者に対する理解が進んでいるとは言いがたい。5月には自民党の国会議員による会合で、「LGBTは種の保存を考えたら望ましくない」という趣旨の発言が出席議員からあった。

 ただ、自治体が性的少数者のカップルに公的証明書を交付する制度は普及し始めている。だが韓国では、この制度を実現した自治体はまだ無い。昨年、韓国に留学した私は、性的少数者に対する差別が日本以上だと感じた。韓国の現状や、根強い差別の背景を2回に分けて紹介する。

「普通の日常を送っていると知ってほしい」

 日本人のせいごさん(29)=仮名=と韓国人のウジンさん(30)=同=のゲイ(男性同性愛者)カップルは2020年2月、動画投稿サイト「ユーチューブ」にチャンネルを開設した。デートや旅行など日常生活を撮影した映像がメインだ。

 今では、再生回数が3万回を超える動画もある人気チャンネルになった。コメント欄は「応援しています」「お似合いです」といった前向きな書き込みであふれている。2人は「応援のコメントを見ると元気出る」と笑顔で話した。

 何のためらいもなく発信しているように見えるが、実はそうではない。このチャンネルの動画は、英語か日本語で検索しないと見つけられないように設定されている。ウジンさんが教育関係の仕事をしているためだ。せいごさんは「生徒の保護者が見ると問題になると恐れたからです」と説明した。保護者に見られないようにするため、韓国語では検索できないようにしたというわけだ。ウジンさんも「正直に言って今も(保護者に見つからないか)怖いです」と吐露する。

 私は、ウジンさんの気持ちをすぐに理解できた。韓国で生活する中で、同性愛者に対する差別や偏見を感じていたからだ。

 私が当時通っていた語学学校の授業で、同性婚に反対するキリスト教団体の記事が教材として取り上げられたことがあった。教師が「同性婚についてどう思いますか?」と生徒に投げかけ、私は「賛成です」と答えた。するとこの教師は「エイズについてはどう考えていますか?」と言った。私は衝撃を受けた。エイズは根拠なく同性愛者のイメージと結びつけられ、偏見が助長された歴史がある。この教師は、いまだにこうした偏見の影響を受けているのだろう。

 私の周囲にいる韓国人の友人や知人の反応からも、問題の根深さを感じることがあった。30代の男性は同性愛者の人権問題について「積極的に話題にすることではないよね」と苦虫をかみ潰したような顔をした。

 ある同性愛者の男性は、通学する大学構内に同性愛を否定する張り紙があったので、反論を書き込んだ。私が同性愛に関する記事を書いた際に、共通の知人を通じて、この男性に張り紙の写真を記事で掲載したいと依頼した。すると「私が書いた反論の文字が写っているからやめてほしい」と断られた。文字の特徴から男性が書いたと特定されるのを避けたかったのだろう。

 ユーチューバーの2人の周囲にいる同性愛者も、性的指向などを周囲の人に明かす「カミングアウト」をしている…

この記事は有料記事です。

残り3033文字(全文4290文字)

日下部元美

外信部記者

1991年東京都生まれ。2014年入社。北海道報道部を経て、2019年5月から現職。2020年6月から韓国・ソウルに語学留学中。現在に至るまで担務の傍ら性的少数者(LGBTなど)や障害者など社会的マイノリティの取材を続け、旧優生保護法下の障害者らに対する強制不妊手術問題を扱ったキャンペーン報道『旧優生保護法を問う』の取材班に参加した。好きな物は映画と漫画。Twitter @MoKusakabe