アフリカン・ライフ

コロナ禍のゴールドラッシュ 違法採掘マフィアのボスに聞いた

平野光芳・ヨハネスブルク支局長
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違法採掘に関与しているとみられる男たち=南アフリカ・ヨハネスブルクで2021年4月20日、平野光芳撮影
違法採掘に関与しているとみられる男たち=南アフリカ・ヨハネスブルクで2021年4月20日、平野光芳撮影

マフィアが仕切る現場

 「デンジャラス(危険だ)」

 ヨハネスブルク支局で長年、非常勤助手をしているケレ(59)に取材の相談をすると、間髪入れずに答えが返ってきた。内容は金の違法採掘についてだった。

 南アフリカは世界有数の金産出国だ。ヨハネスブルクも元々、金鉱山を目当てに人々が集まってできたゴールドラッシュの街。今でも周辺には鉱山が多い。ところが無断・無許可の採掘が後を絶たず、コロナ禍で「安定資産」と言われる金の価格が上昇した影響でますます活況らしい。そんな話を耳にして、ケレに採掘の現場を直接、取材できないかと持ちかけたのだった。

 「現場はマフィアが仕切っているから、なかなか近づけない」とケレは言う。

 公然と違法行為が行われている場所はすなわち無法地帯であり、自分の身の安全を確保しつつ足を踏み入れるのは容易ではない。私が最初にそう痛感したのは、インドネシア・ジャカルタ支局で勤務していた2014年のことだ。インドネシア北西部アチェ州でインド洋大津波から10年の節目のリポートをする際、山間部で盛んな違法森林伐採の現場に行けないかと考えた。

 しかし地元のガイド役らに提案すると「非常に難しい」と言う。まず現場が遠い。車を置いて山道を半日歩くとようやく違法伐採に携わる住民が暮らす集落にたどりつく。そこで1、2日かけて、取材の趣旨や住民に対して悪意がないことなどをじっくり説明した上でないと現場は見せてくれない。

 またおおっぴらに行われている違法行為は、警察や軍、政治家など権力者と裏で癒着している恐れもある。外国人記者がそういった権力者ににらまれると逃げ場はない。取材の時間は限られており、違法森林伐採の現場は諦めるしかなかった。

 ケレの話を聞いて、南アフリカの違法採掘もインドネシアの違法伐採と似たようなものかと思った。ただし現場は自分が暮らすヨハネスブルクにある。「だめだったら引き返せばいい。一か八かで当たってみよう」と説き伏せた。

 ケレの調査で違法採掘場所の一つが分かった。市内中心部から車で30分ほどの郊外で、草や低木が生える丘陵地帯だ。幹線道路の脇に車を止め、3分ほど丘を上ると、10人ほどの男が地面に腰掛けて休憩している。違法採掘者たちだろうか。

 話を聞こうと近づいていくと、自動小銃で武装した警備員が立ち塞がった。「どこに行く?」。警備員の問いにケレは「向こうにある車を取りに行きたいだけ」と言い訳したが、道もない草原の中ではいかにも白々しい。「あっちに行け」。にこりともしない警備員の手は銃にかかっている。とても説得は無理だ。その後も調査を続けたが、なかなかたどり着けそうな現場は見つからなかった。

 「確実に取材できそうな場所がある」。ケレから連絡があったのは3週間ほど後のことだった。…

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平野光芳

ヨハネスブルク支局長

2001年入社。大津支局、福井支局敦賀駐在、大阪社会部、ジャカルタ特派員、奈良支局などを経て20年からヨハネスブルク支局長。共著に「なぜ金正男は暗殺されたのか」