日本外交の現場から

米中対立下の北朝鮮アプローチ 日本が備えるべきプランは

大貫智子・政治部記者
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バイデン米大統領=2021年6月4日、AP
バイデン米大統領=2021年6月4日、AP

 バイデン米政権が4月末、北朝鮮政策の見直しを終えたと発表してから1カ月以上が過ぎた。その内容は公表されていないものの、関係者への取材などから浮かび上がるのは、実務者による協議を積み重ねる段階的なアプローチだ。

 これは2000年代に行われた6カ国協議をほうふつとさせる。当時と決定的に異なるのは米中対立の激化だ。外交のプロとも評されるバイデン政権はどのようなシナリオを描いているのか。日本が備えるべきプランとは。

6・12声明引き継ぎを求めた日本

 「シンガポール声明を引き継ぐべきだと、我々は米国に伝えていた」

 米政府から北朝鮮への対処方針について説明を受けた外務省幹部は、私にこう語った。シンガポール声明とは、史上初の歴史的会談として全世界が注目した18年6月12日の米朝首脳会談後に発表された共同声明のことだ。

 私は思わず「え?」と問い返してしまった。この声明は北朝鮮が求めていた「新しい米朝関係の樹立」「朝鮮半島の恒久的な平和体制構築」がまず明記され、日米にとって最も重要なはずの核問題は3番目に「朝鮮半島の完全な非核化」と記されただけだった。

 日本が強く訴えていた北朝鮮の「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)」は盛り込まれなかった。にもかかわらず、トランプ米大統領(当時)は朝鮮戦争の終戦宣言に強い意欲を示し、現地で日本政府関係者が必死に説得した結果、終戦宣言は合意事項から外れたという経緯がある。

 公表された共同声明に対して、「米側から事前に聞いていた内容はもっとひどかった。この程度で収まって良かった」(政府関係者)と胸をなで下ろしたというのが当時の日本の率直な受け止めだった。

 私のけげんな表情をくみ取るように、この幹部は「そう、合意の中身はスカスカだけど、北朝鮮を交渉に引き出すために共同声明は引き継ぐべきだと言ってきた」と説明した。そし…

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大貫智子

政治部記者

神奈川県生まれ。2000年入社。前橋支局、政治部、外信部を経て13~18年ソウル特派員。12年と16年に訪朝し、元山や咸興、清津など地方も取材した。論説委員、外信部副部長を経て、21年4月から政治部で日本外交を取材。ソウル駐在中から取材を始めた日韓夫婦の物語「帰らざる河ー海峡の画家イ・ジュンソプとその愛」で小学館ノンフィクション大賞を受賞した。「愛を描いたひとーイ・ジュンソプと山本方子の百年」と改題し、刊行。