ウェストエンドから

「新大西洋憲章」が示す米英の「本気度」

服部正法・欧州総局長
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主要7カ国首脳会議(G7サミット)に先立ち行われた米英首脳会談で、大西洋憲章の写しを眺めるジョンソン英首相(左)とバイデン米大統領=英南西部コーンウォールで2021年6月10日、AP
主要7カ国首脳会議(G7サミット)に先立ち行われた米英首脳会談で、大西洋憲章の写しを眺めるジョンソン英首相(左)とバイデン米大統領=英南西部コーンウォールで2021年6月10日、AP

 英南西部コーンウォールで6月11~13日に開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)は、新型コロナウイルス感染拡大を踏まえ、中国の「ワクチン外交」の向こうを張った途上国などへの「10億回分のワクチン提供」や、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」を意識した新たなインフラ支援の枠組み創設など中国への対抗策を打ち出した。

 中国との対立を「民主主義VS専制主義」の構図で捉えるバイデン米大統領が初参加した今回のサミットでは当初から、中国に対して民主主義諸国の結束を明確に示すことができるかどうかが重要課題と指摘されてきたが、一連の対抗策を提示したことによって、一定程度の成果を上げた。

 結束に向けた流れを作ったのは米国と、議長国の英国だったが、両国はサミットに合わせた別の機会に、ある「仕掛け」を使い、国際秩序維持のイニシアチブを取っていくという両国の意思を世界に印象づけようとした。サミット開幕前日、両国がコーンウォールで合意し、署名した「新大西洋憲章」がそれだ。

第二次大戦と重ね合わされたコロナ禍

 まずサミット自体を振り返ってみよう。

 ワクチンについて言うと、開幕6日前の6月5日、ジョンソン英首相が「2022年末までに全世界でワクチン接種を達成する」との目標で一致するよう、G7の席上で呼びかけると発表。これを受けて米政府はサミット直前、ワクチン5億回分提供を表明、ジョンソン氏も英国としての1億回分の提供とG7全体で10億回分提供の方針を示した。インフラ支援の面についても、G7での合意見通しや想定される規模などをいち早く米政府が公表し、アピールした。

 米英がこういった動きと合わせて、独自に展開した2国間外交が「新大西洋憲章」の合意だった。

 サミット前日の10日、初の直接会談となったバイデン氏とジョンソン氏は、世界的課題の解決に米英が協力して取り組むことをうたう、この憲章に署名した。

 これは、第二次大戦中の1941年8月、当時のルーズベルト米大統領とチャーチル英首相が大西洋上で合意した「大西洋憲章」を「再活性化」(ホワイトハウス)させたものとの位置づけだ。

 まず、41年の大西洋憲章を見てみよう。中身は8条項からなる。領土の不拡大▽すべての人々の政体を選択する権利を尊重▽国家間の経済協力▽ナチス・ドイツの打倒▽航行の自由▽恒久的な集団安全保障制度の確立――などで、これらが、後に国連や北大西洋条約機構(NATO)、世界貿易機関(WTO)の前身である「関税貿易一般協定」(GATT)の発足につながった。こうしてみると、戦後の安全保障や自由貿易の根幹を決定づけ、国際秩序の方向性を決した重要な首脳合意だったことが分かる。

 一方、今回バイデン氏とジョンソン氏が結んだ新大西洋憲章も、同じく8条項で構成。…

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服部正法

欧州総局長

1970年生まれ。99年、毎日新聞入社。奈良支局、大阪社会部、大津支局などを経て、2012年4月~16年3月、ヨハネスブルク支局長、アフリカ特派員として49カ国を担当する。19年4月から現職。著書に「ジハード大陸:テロ最前線のアフリカを行く」(白水社)。