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韓国で「ボイコット論」も浮上、東京五輪で日韓関係はどうなる?

坂口裕彦・ソウル支局長
「ジャパン・スポーツ・オリンピック・スクエア」前の五輪マーク=東京都新宿区で2021年6月3日、大西岳彦撮影
「ジャパン・スポーツ・オリンピック・スクエア」前の五輪マーク=東京都新宿区で2021年6月3日、大西岳彦撮影

 「新型コロナウイルスで大変なのに、日本は東京五輪を開催できるのですか?」

 韓国に赴任して3カ月が過ぎたが、韓国人と話すと、老若男女を問わず、ほとんど必ずこのように聞かれるので、いつしか答えるのにも慣れっこになってしまった。

 「日本では今秋までに衆院解散・総選挙がありますから、政府・与党としては政権へのダメージが大きい中止という選択肢はとらないでしょう。たとえ無観客でも開催するのではないでしょうか。歴史問題は、解決の見通しはないけれど、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が開会式に出席したら、冷え込んでいる日韓関係も少しは雰囲気が変わるのではないでしょうか。五輪は平和の祭典ですから」

 日韓関係は、徴用工や慰安婦問題で「1965年の国交正常化以来、最悪」と言われるけれど、「隣人」のことは、やはり気になるのだろうなと思いながら、大体、このように説明していた。私の見通しの甘さをあざ笑うかのように、5月末に突然、降ってわいたのが、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会が公式ホームページ(HP)に島根県の竹島(韓国名・独島)を表示したことに対する韓国国内の「五輪ボイコット論」だった。

与党「ビッグスリー」と韓国大統領選

 しかも、声高に主張したのが、文氏を支える与党「共に民主党」内で、来年3月の大統領選で「ビッグスリー」と言われる有力3候補の李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事(56)と李洛淵(イ・ナギョン)元首相(68)、丁世均(チョン・セギュン)前首相(70)なのだから穏やかではない。

 驚いたのは、真っ先に主張したのが丁世均前首相だったことだ。経済界出身で、国会議長も務め、穏やかな人柄で知られている人物。その丁氏が5月26日に「日本政府が最後まで(HPからの竹島の)削除を拒否した場合は、五輪不参加など韓国政府がすべての手段を動員しなければならない」との過激な発言をフェイスブックに投稿したのだ。

 翌27日には、韓国紙「東亜日報」の元東京特派員で、知日派として知られる李洛淵元首相もすかさず追いかけた。「人類の融和を目指す五輪精神にも反する行為だ。日本が最後まで拒否した場合、五輪ボイコットなどすべての手段を動員して断固たる対応をとらねばならない」とフェイスブックに書き込んだ。

 最後は李在明京畿道知事。6月1日に「国内では五輪ボイコットを求める世論が起きている。国際オリンピック委員会(IOC)が直ちに介入することを求める」との内容を盛り込んだ書簡をバッハIOC会長に送ったことを明らかにした。

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ソウル支局長

1998年入社。山口、阪神支局、政治部と外信部のデスクなどを経て、2021年4月から現職。19年10月から日韓文化交流基金のフェローシップで、韓国に5カ月間滞在した。著書に「ルポ難民追跡 バルカンルートを行く」。