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米露首脳会談後の記者会見における両首脳発言を「深読み」する

宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
米露首脳会談後に記者会見するプーチン露大統領=ジュネーブで2021年6月16日、AP)
米露首脳会談後に記者会見するプーチン露大統領=ジュネーブで2021年6月16日、AP)

 6月16日、ジュネーブで米国のバイデン大統領とロシアのプーチン大統領が初めて首脳会談を行った。20日付毎日新聞は「バイデン・プーチン会談 実効性ある核軍縮が必要」と題する社説を掲げ、「歩み寄りの背景には、中国と協力しつつ米国とも協調することで立場を強めたいロシアと、中国への対応に専念したい米国の思惑が一致したことがあるのだろう。掛け声倒れに終わらせてはならない。戦略対話を軌道に乗せ、信頼の回復を図り、世界の安定へとつながる関係を築くべきだ」と結んでいる。

 核軍縮に関してはこれに尽きている。だが、首脳会談直後に両首脳が別々に開いた記者会見の内容は更に興味深い。今回の会談で両首脳が核問題以外の問題についても突っ込んだやりとりを行った可能性を示唆しているからだ。

 そこで今回は、記者会見等でのバイデン、プーチン両大統領の発言を対比させながら、最近の米露関係、特に米国とロシアの対中政策の違いについて勝手に「深読み」してみたい。ポイントは米国の対中競争政策の優先順位の変化と、それに伴う対露関係の調整努力であろうか。毎度のことながら、以下はあくまで筆者の個人的分析である。

 18日付日本経済新聞が報じたバイデン、プーチン両大統領の記者会見での発言を基に、両首脳の発言をテーマごとに比較してみたら、行間から興味深い仮説が浮かび上がってきた。バイデン発言の重要部分については可能な限り英語原文の該当部分も示した。最後の【 】内はいずれも筆者の個人的コメントである。

今回の首脳会談について

 <プーチン大統領>

 ■首脳会談はきわめて建設的であり、バイデン氏がとても経験豊かだと確信した。プロフェッショナルで、建設的で、バランスの取れた人だ。(米露も含めて首脳同士の関係は)いつもプラグマティック(実務的)だ。(首脳会談の翌日、大学の卒業生向けビデオ講演での発言、この部分のみロイター記事)

 ■ロシアだけでなく米国のメディアでも描写されているようなバイデン大統領の印象は、現実とは全く共通点がない。

 ■私自身、飛行機で移動する際はその影響を受けるが、バイデン氏は元気に見えた。われわれは2時間かそれ以上、顔を突き合わせて会談した。彼は物事を完全に熟知している。

 ■バイデン氏はプロであり、彼と仕事をする際は何も見逃さないよう十分注意する必要がある。彼は何一つ見逃さないと断言できる。

 【これらの発言には、久しぶりに本気で戦うに値する経験豊かなプロの米国政治家と交渉できたプーチン大統領の喜びと充実感と敬意がにじみ出ていると感じた。逆に言えば、プーチン氏にとってトランプ前大統領は「経験不足」「アマチュア」「非建設的」で「バランス感覚を欠く」「非実務的」な「素人」だったということか。プーチン氏は意外に正直だなと思った。】

 <バイデン大統領>

 □会談のトーンはポジティブだった。指導者同士の直接対話に代わるものはない。両国の関係は安定し、予測可能でなくてはならず、相互利益がある分野では協力すべきだ。

 □私はプーチン氏に、私の政策は反ロシアではなく、米国民のためのものだと伝えた。両国の協力が相互の利益で、世界のためにもなる分野がある。

 【この会談でバイデン大統領がプーチン大統領を高く評価したかどうかは不明だが、少なくともプーチン氏をちゃかした発言はない。恐らくバイデン氏は、プーチン氏の天才的ずる賢さを以前から身に染みて知っており、やはり今回も予想通りだった、と思ったのではなかろうか。】

 □(プーチン氏を信頼できるかどうかについて)これは信頼ではなく、自己利益の問題だ。【…

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キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1953年生まれ。外務省日米安全保障条約課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを経て2005年に退職。立命館大客員教授、外交政策研究所代表なども務める。近著に「AI時代の新・地政学」。フェイスブック「Tokyo Trilogy」で発信も。