認知症「予防薬」より大切なもの

吉田啓志・公益財団法人認知症予防財団事務局長
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米国で仮承認されたアデュカヌマブ=米バイオジェン提供
米国で仮承認されたアデュカヌマブ=米バイオジェン提供

 認知症予防に一筋の光――。認知症の多くを占めるアルツハイマー病の進行を抑える薬「アデュカヌマブ」が6月、米当局の仮承認を得た。世界各地で「画期的新薬」ともてはやされ、日本でも審査中だ。

 ただし、認知症の前段階か軽度の人にしか効果はなく、治療薬というよりは「予防薬」の色彩が濃い。大騒ぎするテレビを眺めながら、認知症でも新薬の恩恵を受けられないであろう大半の方々の苦悩に思いをはせた。

本人の思いに寄り添う

 「人の名前が思い出せない。心配だ」。当財団の電話相談には、本人による認知症予防法の問い合わせがとみに増えている。世間の認知症予防への関心の高まりは肌で感じる。もちろん予防を否定するつもりはない。が、近年の過剰な予防重視の傾向には懸念がつきまとう。背景に「認知症になれば終わり」という根強い偏見があるのでは、と思えるからだ。

 認知症の人と意思の疎通などできない、と思い込んでいる人は少なくない。しかし、多くの当事者は意思や豊かな感情を持ち、周囲に気遣い、絶望と闘っている。

 認知症の70代の男性は介護施設に入所する際、施設の職員が付き添いの息子だけに名刺を渡したことに傷ついた。「何も分からないとみなされ、自分の思いを聞いてもらえないのか」と。そして偏見へのショックと諦め、迷惑をかけているという負い目から、気持ちを口に出せなかった。

 専門家によると、…

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吉田啓志

公益財団法人認知症予防財団事務局長

 1963年生まれ。認知症予防財団に寄せられる電話相談などの内容を集計、分析している。毎日新聞記者を兼務。2003年より現在に至るまで介護保険など社会保障制度を中心に取材を続けている。