ウェストエンドから

欧州が直面する21世紀の「革命」とは

服部正法・欧州総局長
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英ドーバーの港。欧州大陸側からボートなどで渡ってくる亡命希望者が周辺に多く到達する=英南東部ケント州で2021年7月、服部正法撮影
英ドーバーの港。欧州大陸側からボートなどで渡ってくる亡命希望者が周辺に多く到達する=英南東部ケント州で2021年7月、服部正法撮影

 欧州の難民・移民問題に一石を投じる動きとなるのだろうか。

 デンマークと英国の両政府が6月以降、アフリカなどからの亡命希望者を自国内にとどめず、第三国に移送して審査する方向性を相次いで打ち出した。亡命希望者の保護などの観点から、第三国への移送には反対の声が根強い。

 だが、1年間に100万人以上の難民・移民が流入した2015年の「欧州難民危機」を経て、欧州では難民・移民の受け入れについて以前に比べて厳しい目が向けられるようになっており、「反移民」を掲げる右派ポピュリスト(大衆迎合主義者)らも勢いを増してきた。難民・移民の流入に歯止めをかけようとする今回のデンマークと英国の政策は、欧州の難民・移民政策が「包摂」から「排除」へと転換する兆しなのか。

デンマークが次々打ち出す厳しい難民・移民政策

 まずデンマークの現状とその背景を見てみよう。

 デンマーク議会は6月3日、亡命希望者の移送を可能にする法案を賛成70、反対24の賛成多数で可決した。実際に移送先の第三国がどこになるか今の段階では定かではない。しかし、デンマークのテスファイ移民・統合相が4月下旬にアフリカ中部ルワンダを訪問し、難民・移民問題での協力に関する覚書をルワンダ政府と交わしたことから、移送先がルワンダになるのではないかとの憶測が広がっている。

 亡命希望者の移送先として、ルワンダは以前にも国際的に取り沙汰されたことがある。イスラエルが自国内にいるアフリカ東部エリトリアなどからの亡命希望者に自発的な移動を促し、一部がルワンダやウガンダに移送されたことが、これまで多くのメディアによって報じられてきた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、13~17年に両国に計約4000人のエリトリア人、スーダン人が移送されたとみられるという。

 今回のデンマークでの法案可決については、懸念の声が上がっている。ロイター通信によると、欧州連合(EU)の行政執行機関「欧州委員会」の報道官は、亡命希望者の保護などの面で「根本的な問題がある」と疑問を呈した。

 デンマーク政府が難民・移民に対して打ち出した新たな方針は、これだけではない。

 21年に入ってデンマーク政府は、欧州の国では初めて、国内に暮らす一部のシリア難民について定住資格を取り消す決定を下した。「首都ダマスカスの治安状況がもはやそれほど深刻ではない」との判断からだという。英紙フィナンシャル・タイムズによると、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のシリア専門家、サラ・カッヤリ氏は「シリア政府がダマスカスの大部分を支配し、もはや空爆がないということに基づいた決定だが、(亡命希望者らへの)迫害のリスクなどは今もあり、条件は改善していない。シリアが安全に帰還できる場所でないのは明らかだ」と述べ、デンマーク政府の状況認識を批判した。

 また、デンマーク政府は、「非西洋」出身の移民とその子孫が人口の過半数を占め、失業率が高いなどのいくつかの基準を満たした地域を「ゲットー」に指定。デンマーク人と移民との異なる「並行社会」を国内に生み出さないよう、移民のデンマーク社会への統合を図るため、ゲットーに住む1歳以上の移民家庭の子供たちは週25時間以上、保育施設に預けて「デンマークの価値観」を学ばなければならないと定めたほか、ゲットー内での犯罪に対してより重い罰則を科したり、ゲットー内の公営住宅の戸数を30年までに4割まで減らす計…

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服部正法

欧州総局長

1970年生まれ。99年、毎日新聞入社。奈良支局、大阪社会部、大津支局などを経て、2012年4月~16年3月、ヨハネスブルク支局長、アフリカ特派員として49カ国を担当する。19年4月から現職。著書に「ジハード大陸:テロ最前線のアフリカを行く」(白水社)。