不思議の朝鮮半島

「いびつな」歴史に終止符?文在寅氏の立場から考えた韓国大統領選

坂口裕彦・ソウル支局長
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国務会議に出席した文在寅大統領=ソウルで2021年7月20日(韓国青瓦台提供)
国務会議に出席した文在寅大統領=ソウルで2021年7月20日(韓国青瓦台提供)

 「また歴史は繰り返されてしまうのでしょうか」。そんな会話を何人かの知人と交わすことになったのは、韓国の次のリーダーを選ぶ、来年3月の大統領選に向けた与野党の動きが激しくなってきたからだろう。

 韓国大統領の任期は、1期5年で再選がない。文氏の任期は来年5月までで、残り10カ月を切った。知人らとの間で話題になったのは「今回こそ、退任した大統領は、平穏無事に余生を過ごすことができるのだろうか」ということだった。というのも、歴代大統領のほとんどが退任後に自殺したり、本人や家族が逮捕・収監されたりしているからだ。「世界で最もリスクが大きい職業の一つ」と言っても過言ではない。

 たとえば、進歩系の文氏が「政治の師」とあおぐ盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏(在任2003~08年)は、09年に不正資金疑惑で検察の事情聴取を受けた後、岩山から飛び降りて、自ら命を絶った。保守系の大統領も李明博(イ・ミョンバク)氏(同08~13年)が巨額収賄事件で懲役17年、朴槿恵(パク・クネ)氏(同13~17年)も、財閥グループから多額の賄賂を受け取ったとして収賄罪などに問われて懲役計22年の判決が確定した。2人は今、服役中で、満期だとすると李氏は90代、朴氏は80代後半まで刑務所で過ごすことになる。

 文氏は退任時、69歳になっている。歴代大統領と同じ運命をたどるかもしれないと思うのは、政権と対立して辞任した尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検事総長が6月29日、「反文政権」を前面に出した事実上の出馬表明をしたからだ。一方でこうも考えた。「文氏やその周辺が、自分たちをどのように守ろうとするのか」という視点で見ることは、今回の大統領選の行方を読み解くことにつながるのではないか、と。

前検事総長が突きつけた文氏への「宣戦布告」

 「国民の常識が武器だ。国民と国家のために必ず政権交代を実現しなければならない」

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坂口裕彦

ソウル支局長

1998年入社。山口、阪神支局に勤務し、2005年に政治部。外信部、ウィーン支局、政治部と外信部のデスクなどを経て、21年4月から現職。19年10月から日韓文化交流基金のフェローシップで、韓国に5カ月間滞在した。著書に「ルポ難民追跡 バルカンルートを行く」(岩波新書)。