
東京オリンピックが始まり日本各地で興奮と不安が交錯する中、先週ロイド・オースティン米国防長官がシンガポール、ベトナム、フィリピンの3国を訪問した。オリンピックとパンデミックで忙しい日本メディアはあまり大きく報じなかったが、今回の国防長官の歴訪はバイデン政権のインド太平洋外交の行方を占う上で極めて重要と考える。
「米国防長官 東南アジア訪問へ “中国への包囲網を強化”」
「米国防長官 東南アジア歴訪…比、地位協定を維持 『対中』へ関係再構築」
本邦有力メディアはこう報じた。あれあれ、中国「包囲網」? 米比「地位協定」? うーん、間違いではないが、必ずしも正確ではない。そこで今回は、バイデン政権の国防長官として初めて東南アジアを訪問したオースティン長官の演説や共同記者会見を中心に、米国のインド太平洋政策の現状を「深読み」してみよう。
毎度のことながら、以下はあくまで筆者の個人的分析である。
国防長官の政策演説
英国際戦略研究所(IISS)は毎年6月にシンガポールで「アジア安全保障会議」、通称「シャングリラ会合」を開催してきた。毎回同会議にはアジアを中心に主要国の首脳・閣僚が顔をそろえて安全保障に関する演説や議論を行うのだが、今年は、昨年同様、新型コロナウイルス感染拡大で中止された。今回オースティン長官が出席したのはこれに代わる小規模の国際会議である。
まずは同長官演説の主要部分をご紹介しよう。【】内は筆者の独り言である。
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キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
1953年生まれ。外務省日米安全保障条約課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを経て2005年に退職。立命館大客員教授、外交政策研究所代表なども務める。近著に「AI時代の新・地政学」。フェイスブック「Tokyo Trilogy」で発信も。