アフリカン・ライフ

貧者は新型コロナワクチンを接種できるのか 正念場に立つCOVAX

平野光芳・ヨハネスブルク支局長
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COVAXを通じてケニアの空港に届いたワクチン=ナイロビで8月6日、AP
COVAXを通じてケニアの空港に届いたワクチン=ナイロビで8月6日、AP

突然に始まった接種

 「ワクチン(接種)の最前列にいるわ。もう泣きそう」「終わった。何も痛みはなかった!」

 7月15日朝、ヨハネスブルクの支局兼自宅でスマートフォンを見ていると、ツイッターに地元の女性がこんな書き込みをしているのに気付いた。南アフリカではこの日が35~49歳の新型コロナウイルスワクチンの接種予約開始日だった。インターネットの専用サイトで氏名や生年月日、連絡先などを登録すると、追って政府が接種の日時と場所を指定してくる仕組みだ。43歳の私もこの日朝一番で登録したが、公式発表では接種を受けられるのは「8月1日以降」とされていた。

 ところがツイッターで投稿をしたこの女性は朝、50歳以上の接種を行っているヨハネスブルクの会場に並んでみたところ予約なしでも接種できたといい、その写真までアップしていた。

 「まさか」。私は目を疑ったが、万事が日本のように厳格ではないこの国ではありそうなことだ。女性が接種をした会場は、私が働く毎日新聞ヨハネスブルク支局から車で10分ほど。半信半疑だったが、書き込みを見た人がこれから殺到するかもしれず、のんびりしてはいられない。車のエンジンをかけてあわてて飛び出した。

 一日も早くワクチンを打ちたかったのには訳がある。南アフリカではインド由来のデルタ株が猛威を振るい、6月から新型コロナ感染者が急増していた。特に深刻なのは、私が住むヨハネスブルクや首都プレトリアがある人口1550万人のハウテン州だ。新規感染者数はピークの7月3日、1万6091人にも上った。1日で1000人に1人以上が新規感染した計算になる。

 東京都の人口に当てはめれば1日に感染者が1万4000人という異常事態だ。私は3、4日に1度、近所のスーパーに買い出しに行く以外は外出を控えるなど最大限の努力をしていた。だが、感染者数を示す棒グラフの山は目を疑うような高さに達し、まるで私たち家族をのみ込むばかりに迫る大津波のように見えた。

 午前10時半に会場に到着すると、屋外で既に200人以上が列を作っていた…

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平野光芳

ヨハネスブルク支局長

2001年入社。大津支局、福井支局敦賀駐在、大阪社会部、ジャカルタ特派員、奈良支局などを経て20年からヨハネスブルク支局長。共著に「なぜ金正男は暗殺されたのか」