
これを「最終」とするのであれば、あまりに杜撰(ずさん)としか言いようがない。
3月6日に名古屋出入国在留管理局(以下、名古屋入管)で亡くなったスリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさんの事件について、8月10日、入管庁は最終報告書を公表した。中間報告には記載のなかった2月15日の尿検査の値は、ウィシュマさんが飢餓状態であることを示すものだったが、最終報告書では、施設の医療の制約など、表面的な問題をなぞるにとどまり、入管の処遇と死亡の因果関係については触れていない。
真相解明の鍵を握るはずの、ウィシュマさんの居室の監視カメラ映像2週間分は、約2時間分に切り縮められ、遺族にのみ一部が開示された。視聴に際し代理人弁護士の同席は認められず、法務省自ら、代理人制度を否定した形となる。入管は必要な資料や証拠を開示しない理由として、「保安上の理由」を呪文のように繰り返してきたが、正確には組織の「保身上の理由」ではないだろうか。
DV被害者とは認めず
ウィシュマさんはDVの被害を受け、相手男性B氏から、スリランカに帰れば危害を加えるといった趣旨の手紙が届いたため、帰国ができないことを訴えていた。
最終報告書には、入管側が選んだ医師や弁護士ら6人の有識者が調査チームに加わっていたことが記されているが、いずれもDVや性暴力の専門家というわけではない。
性暴力の被害者支援にも携わる寺町東子弁護士に、改めてこの最終報告書のDVについての記載を見てもらった。
最終報告書によると、ウィシュマさんは2020年8月19日、静岡県内の交番に出頭したことについて「恋人に家を追い出された」と語り、8月21日には入国審査官に対し、「B氏と同居していたとき、殴られたり蹴られたりしていた」「B氏から無理やり中絶させられた」と伝えたとされる。寺町さんは「なぜすぐにDV被害者としての扱いがなされなかったのか」と疑問を呈する。
法務省入国管理局長から各収容所長などに通達された「DV事案に係る措置要領」では、DV被害者を認知した場合の対応や、関係機関の連絡などが細かく整理されているが、ウィシュマさんに対して、この措置要領にのっとった事実関係の確認はなされていない。最終報告書ではその理由として、措置要領の存在や内容が周知されていなかったことが挙げられているが、問題はそれだけだろうか。
気がかりなのは、中絶を強いられたという証言だ。…
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