宮家邦彦の「公開情報深読み」

タリバンは変わったか カブール陥落後のタリバン幹部会見を「深読み」

宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
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アフガニスタンの首都カブールで警戒にあたるタリバン戦闘員=2021年8月30日、ロイター
アフガニスタンの首都カブールで警戒にあたるタリバン戦闘員=2021年8月30日、ロイター

 8月15日のあっけないカブール陥落からわずか2日、タリバン報道官がアフガン全土の実権掌握後初めて本格的記者会見を行った。毎日新聞社説は「問題はタリバンがどんな国家運営をするかだ」と書き、朝日新聞社説の見出しも「タリバン会見 人権の懸念なお拭えぬ」だった。どちらも正論だと思う。

 ところが、なぜか日本のメディアは、この会見内容を詳しく報じていない。一部に「タリバン幹部は本当のことを言っているのか? 会見の表情を分析」なる興味深い記事もあったが、それも「女性の権利」問題が中心だった。

 こうした傾向は欧米メディアも同様だ。恐らく、大方の関心はカブール空港脱出作戦の大混乱に移ってしまったのだろう。

 この脱出劇につき毎日新聞社説は「アフガンからの退避 初動の遅れが難航招いた」などと手厳しかったが、この問題は経験豊富な危機管理の諸専門家にお任せする。

 幸い、英訳版全文がアルジャジーラ放送のサイトで見つかったので、今回はこの記者会見の内容に焦点を当て、タリバンの論理とその限界を「深読み」してみよう。毎度のことながら、以下はあくまで筆者の個人的分析である。

第一目的は外国軍の放逐

 今回タリバンの報道官は開口一番、こう述べている。

 ■我々は外国人を駆逐した。この点でアフガニスタン全土を祝福したい。全ての国にとって自由と独立の追求は正当な権利である。アフガン人も過去20年間、この自由と占領からの祖国解放のための闘争の中で、この権利を行使してきた。

 【タリバンの論理の基本はこれだ。20年間の闘争の目的は、中央政府の打倒ではなく、あくまで外国軍隊の放逐であったと述べている。この点、アフガニスタンの歴代反政府勢力は歴史的に一貫している。こうした感覚は英国やソ連の占領時代と基本的に変わっていないのだろう。】

 ■タリバンに敵対し戦った全ての者に我々は恩赦を与えた。我々はもう紛争を繰り返したくない。我々は紛争の要素を取り除きたいのだ。従って、「イスラム首長国」はいかなる者に対しても怨念(おんねん)や敵意を持たない。

 【これはあくまで建前、もしくは後述するように、希望的観測である。タリバンは過激派組織ISIS-K(イスラム国ホラサン州)と厳しい対立関係にあり、ISIS-Kは8月26日にカブール空港ゲート前で自爆攻撃を敢行した。これに対して報復攻撃を複数回行ったのは皮肉なことに米軍である。タリバンが放逐したはずの米軍とタリバンは、少なくとも短期的に、一定の利益を共有しているようだ。】

新政府樹立と治安維持

 続いて、タリバン報道官は新政府につきこう述べた。

 ■近く終了する協議の後、強力で包括的なイスラム政府が作られることを保証したい、インシャアッラー。カブールの住民に対しては、全面的な治安維持と彼らの尊厳・治安・安全を保障したい。

 【筆者の経験則では、このインシャアッラー(アッラーが望むのであれば)で終わる文章ほど、実現可能性が低いものはないと思う。少なくとも、あの記者会見から2週間たったが、新政権は発足していないし、当然、カブール市内では今も略奪と暴行が横行している。これはあくまでタリバン側の希望的観測のようだ。】

外国政府、国際社会との関…

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宮家邦彦

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1953年生まれ。外務省日米安全保障条約課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを経て2005年に退職。立命館大客員教授、外交政策研究所代表なども務める。近著に「AI時代の新・地政学」。フェイスブック「Tokyo Trilogy」で発信も。