逼迫する医療 自宅療養と入院難民の先にある「多死社会」

吉田啓志・公益財団法人認知症予防財団事務局長
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自宅療養者のうち酸素投与が必要となった人のための「酸素投与ステーション」を視察後、取材に応じる東京都の小池百合子知事(右奥)=東京都渋谷区で2021年8月21日、宮間俊樹撮影
自宅療養者のうち酸素投与が必要となった人のための「酸素投与ステーション」を視察後、取材に応じる東京都の小池百合子知事(右奥)=東京都渋谷区で2021年8月21日、宮間俊樹撮影

 新型コロナウイルス感染症の治療について、政府は入院対象者を重症患者や特に重症化リスクの高い人に絞り込み、原則自宅療養とすることを可能とする方針に転じた。

 急激な感染拡大に慌てふためいたあげくの窮余の策だ。とはいえ、国の大方針は以前から医療も介護も「在宅」が基本。コロナ禍での「入院難民」の続出は、日本の医療、介護の将来像かもしれない。

病床数のつじつま合わせ

 5月のゴールデンウイークのさなか、東京都内で元公務員の70代の独居男性が自宅の風呂場で死んでいるのが見つかった。男性は「胸がおかしい」と訴え、知人から医者にかかるよう勧められていた。それでも発熱はなく、そのままにしていたという。足が悪く閉じこもりがちだった男性は食事もまともにとれず、ひっそりと亡くなっていた。死後、保健所の検査でコロナへの感染が分かった。

 コロナの「第5波」では首都圏などで病床不足が続く。重症でも入院できずに死亡する人が相次ぎ、焦った政府は重症患者らを除いて「在宅」の原則を打ち出した。「患者の主流が死亡リスクの低い若い世代に移った以上、高齢の患者を想定した『皆入院』方針は改めないと」。それが官邸官僚の言い分だった。

 しかし、実情は頼みのワクチンが欠乏するなかで感染爆発が起き、官邸主導で病床数のつじつまを合わせようとしただけ。在宅患者の重症化リスクを見極められるのか、幼子を抱えた人、身寄りのない人に目が届くのか、といった数々の疑問は置き去りにされた。

進む「在宅」への流れ

 もっとも、医療資源に限りがあるのはコロナだけではない。

 肺を病んで都内の病院に半年近く入院していた男性(72)は昨年秋、院長から「転院か在宅に」と言われた。が、都内の息子家族の家は狭く同居はできない。近隣の病院にはことごとく断られ、最終的には何の縁もない埼玉県郡部の病院に入らざるを得なかった。

 逼迫(ひっぱく)する医療保険財政の下、国は長期入院の保険点数を削ってきた。病院は、もうからない慢性病の高齢者を早々と追い出すようになった。高齢者を病院から介護施設へ誘導し、さらに在宅へ――という大きな流れは止まらない。

 戦後ベビーブームの「団塊の世代」が来年度から順次75歳になる。これから首都圏では高齢者数が倍増する見通しだ。それなのに人口当たりの病床数、介護施設数は乏しい。

 高齢化で死ぬ人も急増する。全国の年間の死者数は現在130万人前後だが、2030年には160万人程度に膨らむ。厚生労働省は40年ごろに49万人分のみとりの場が不足すると推計しており、都市部では死の間際に行き場のない人が続々出かねない。

不足する看護師、介護職

 打開策として同省が掲げるのが「地域包括ケアシステム」だ。…

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吉田啓志

公益財団法人認知症予防財団事務局長

 1963年生まれ。認知症予防財団に寄せられる電話相談などの内容を集計、分析している。毎日新聞記者を兼務。2003年より現在に至るまで介護保険など社会保障制度を中心に取材を続けている。