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自爆テロのメカニズムとは<暴力的過激主義を追う>

大治朋子・編集委員(専門記者)
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「テロ対策」とアフガニスタンの中央集権型「国づくり」を掲げて約20年を費やし撤退した米軍=アフガニスタン南東部パクティカ州で2009年6月、大治朋子撮影
「テロ対策」とアフガニスタンの中央集権型「国づくり」を掲げて約20年を費やし撤退した米軍=アフガニスタン南東部パクティカ州で2009年6月、大治朋子撮影

「究極のスマート爆弾」

 約20年におよぶアフガニスタン戦争は2001年9月11日の国際テロ組織「アルカイダ」による自爆テロで始まり、首都カブールで先日起きた過激派組織「イスラム国」(IS)系勢力による自爆テロで幕を閉じた。自爆テロは古典的な戦術に思われがちだが、テロリズム研究者の間では今も「最強の人間兵器」とされる。

 イスラエルのシンクタンク「国家安全保障研究所(INSS)」によると、世界で起きた自爆テロの総数は18年以降は減少傾向にあるが、それでも20年に17カ国で計127件発生し、その大半がアフガンを統治するイスラム主義組織タリバンやアルカイダ、ISやその支援勢力によるものだ。

 「自爆テロリストは究極のスマート(精密誘導)爆弾だ。カネがかからず容易だが成功率が高い」

 18年夏、テロリズムの研究で知られるブルース・ホフマン米ジョージタウン大学教授はイスラエルの大学院でテロのメカニズムについて講義し、そう強調した。

 自爆テロは人間がその五感を鋭敏に研ぎ澄まし、標的に気づかれないよう細心の注意を払って距離を縮め、直前のさまざまなハプニングにも臨機応変に対処しながらタイミングを見計らって遂行される。そんな人間の判断力や柔軟性には、最新鋭の人工知能(AI)搭載兵器もいまだ遠く及ばない。

 今回カブールで起きた自爆テロも、ISの広報機関によると実行犯はタリバンや米軍の警備をかいくぐり、米兵たちに「5メートル弱の距離」にまで近づき自爆したという。米国のシンクタンク「ランド研究所」によると、自爆テロはその他の手段を使ったテロ攻撃に比べ平均で4倍の死傷者を出す。

 テロ組織にしてみれば、まさに「最強の人間兵器」(ホフマン氏)なのだ。

自爆テロの歴史

 自爆テロは1980年代にレバノンの首都ベイルートで起きた事件に端を発するとされる。81年12月にイラク大使館、83年4月と10月には米仏両軍事施設などが標的にされ計360人以上が死亡した。

 いずれも後にイスラム教シーア派武装組織「ヒズボラ」(アラビア語で神の党)軍事部門最高幹部に就任するイマド・ムグニエ(08年に暗殺)らが指揮したとされる。後に「自爆テロの父」と呼ばれた人物だ。00年から05年にかけてのパレスチナによる第2次インティファーダ(対イスラエル民衆蜂起)でも自爆テロが頻発した。

 だが自爆テロはイスラム教系の過激派に限られた戦術ではない。1980年から2005年にかけて世界各地で起きた自爆テロ315件(自爆テロ犯462人関与)を各種文献(アラビア語、ヘブライ語、ロシア語や英語)で分析したロバート・ペイプ米シカゴ大学教授の論文によると、マルクス主義系組織や世俗主義の組織も活用してきた。その大半は「占領者である外国部隊の追放」を動機に掲げており、まさに今回のカブール・テロと同じモチベーションだ。

 ちなみに自爆犯はレバノンやパレスチナ、イラクでは8割以上が男性で、特にパレスチナやイラクでは高校卒業以上の学歴、中産階級以上の家庭出身が目立つとされる。

「人間兵器」を発掘し製造する

 冷徹なテロ攻撃に、なぜ人は突き進んでしまうのか。

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大治朋子

編集委員(専門記者)

 1989年入社。サンデー毎日、社会部、ワシントン特派員、エルサレム特派員などを経て現職。英オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所客員研究員。2017年から2年間休職しイスラエル・ヘルツェリア(IDC)学際研究所大学院(テロ対策&国土安全保障論、サイバーセキュリティ専攻)修了、シンクタンク「国際テロリズム研究所」(ICT)研修生。テルアビブ大学大学院(危機・トラウマ学)修了。防衛庁(当時)による個人情報不正収集・使用に関する報道で02、03年度新聞協会賞受賞。ボーン・上田記念国際記者賞など受賞。単著に「勝てないアメリカー『対テロ戦争』の日常」(岩波新書)、「アメリカ・メディア・ウォーズジャーナリズムの現在地」(講談社現代新書)など。