宮家邦彦の「公開情報深読み」

「米国の真実」語ったブッシュ氏 9・11事件20周年 大統領たちの演説を「深読み」

宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
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米同時多発テロの追悼式典で国歌が流れ、胸に手を当てるバイデン米大統領夫妻(右)ら。左はクリントン元大統領夫妻、中央はオバマ元大統領夫妻=ニューヨークで2021年9月11日、ロイター
米同時多発テロの追悼式典で国歌が流れ、胸に手を当てるバイデン米大統領夫妻(右)ら。左はクリントン元大統領夫妻、中央はオバマ元大統領夫妻=ニューヨークで2021年9月11日、ロイター

 9月11日、米国はあの同時多発テロ事件20年を迎えた。あっけないカブール陥落から2週間、1万1000人以上の米国人、外国人、アフガニスタン人などを出国させた後、8月30日深夜に駐留米軍最後の部隊がアフガニスタンから撤退した。あの大混乱から2週間、米国各地では20年前に起きた同時多発テロの犠牲者を追悼する式典・集会が開かれた。

 ジョー・バイデン大統領は、米東部3カ所で追悼式典に出席した。毎日新聞は、「献花しただけで演説は行わなかった。同時テロをきっかけとするアフガニスタン戦争が8月に終結したが、米軍撤収時の混乱への批判は尾を引いている。『戦争を終わらせた大統領』とのアピールは影を潜め、存在感は乏しかった」と報じたが、果たしてそうだろうか。

 一方、20年前に現職だったジョージ・W・ブッシュ元大統領は、東部ペンシルベニア州シャンクスビルで行われた追悼式典で演説を行った。これにつき毎日新聞は、元大統領が「『試練と悲しみの日に、大勢の人が隣人の手を握り結集した。これこそが私の知る米国の姿だ』と当時を振り返り、分断が進む米社会に結束を求めた」などと的確に報じている。

 今でも2001年9月11日は多くの米国民にとって特別の日だ。特に20周年の今年、米メディアは多くの特集番組・記事を組んだが、なぜか日本のメディアは米国内の状況をあまり詳しく報じない。されば、今回は追悼式典などでの歴代米大統領の言動に焦点を当て、改めて米国人にとっての9・11事件の意味を「深読み」してみよう。毎度のことながら、以下はあくまで筆者の個人的分析である。

バイデン大統領

 バイデン大統領が式典で演説しなかったことは事実だ。代わりに前日深夜、6分ほどの短いビデオメッセージを公表し、当日朝にはネット上にツイートしている。ビデオメッセージの要旨を記したツイートの内容は次の通りだ。

 ■(同時多発テロの)後に分かったことは、団結こそが我々の最大の力であることだ。団結こそが我々(米国人)が何者であるかを決めるのである。我々はこのことを決して忘れることはできない。As we saw in the days that followed, unity is our greatest strength. It’s what makes us who we are ― and we can’t forget that.

 【毎日新聞は、「『分断』が顕著な米国社会を念頭に、国民に結束を呼びかけた」と的確に報じているが、同時に、「バイデン氏が露出を控えたのは、アフガンでイスラム主義組織タリバンの復権を許したことや米軍のアフガン撤収時の混乱が非難されていることも理由だとみられる」とも報じている。うーん、必ずしも間違いではないのだが……。

 先ほどワシントンの友人とZoomで雑談する機会があったが、彼の見方はちょっと違った。今回バイデンが演説しなかった最大の理由は、同時多発テロの犠牲者遺族の一部から「テロ事件の犯人とサウジアラビアとの関係などに関する機密情報を公開しない限り、バイデン大統領の式典参加に反対する」と圧力を受けていたからだ、というのだ。

 確かに、9月11日、FBI(連邦捜査局)は事件関連捜査記録の一部を機密解除し、初回分を初めて公開している。CNNによれば、同文書には「ロサンゼルスにいた学生と称するサウジ人に関する多数の関係筋や目撃者の証言」が含まれ、「FBIはこの学生をサウジの情報機関要員ともにらみ、ハイジャック犯2人への旅行面での支援、宿泊や資金援助での便宜供与に深く絡んでいたともみていた」らしい。

 この公表内容で遺族たちが満足するとは思えないが、少なくとも、追悼式で「ブーイング」を受ける可能性は減ったのではないか。カブールでの混乱でバイデン大統領の支持率が下がっているのは事実だが、恐らく同大統領が一番気にかけていたのはテロ犠牲者遺族たちの感情だったのではなかろうか。】

オバマ、クリントン両元大統領

 バイデン大統領と同じ民主党のバラク・オバマ元大統領やビル・クリントン元大統領は今回演説を行っていない。映像で見る限り、ニューヨークでの追悼式典には両元大統領とも夫妻で参加していた。ちなみに、カマラ・ハリス副大統領はペンシルバニア州での追悼式典に参列し演説を行ったが、同式典にはチェイニー元副大統領も参加していたようだ。

ブッシュ元大統領

 9月11日の白眉(はくび)はブッシュ元大統領の追悼演説だった。バイデン大統領自身も「ブッシュ元大統領の演説は良かった」と称賛しているほどだ。ブッシュ元大統領の演説の中で筆者が最も気に入っているのが次の部分である。…

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宮家邦彦

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1953年生まれ。外務省日米安全保障条約課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを経て2005年に退職。立命館大客員教授、外交政策研究所代表なども務める。近著に「AI時代の新・地政学」。フェイスブック「Tokyo Trilogy」で発信も。