中東の現在地

イスラエル新政権の「合理的な」パレスチナ政策

三木幸治・エルサレム特派員
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バイデン米大統領(右)と会談するイスラエルのベネット首相=ホワイトハウスで2021年8月27日、AP
バイデン米大統領(右)と会談するイスラエルのベネット首相=ホワイトハウスで2021年8月27日、AP

 中東のイスラエルで、12年ぶりに政権交代が起きてベネット首相率いる新政権が発足し、約3カ月が経過した。国際社会が注目するのは、ネタニヤフ前政権時代に停滞したパレスチナとの和平交渉の行方だ。

 ベネット氏は緊密な関係にある米国のバイデン大統領との首脳会談を8月下旬に終えると、「新たなパレスチナ政策」を実行に移し始めた。一体、どういう内容なのか。停滞する和平交渉の打開につながるのだろうか 。

首脳会談の発表内容が異なったわけは?

 ベネット氏とバイデン氏の会談は8月27日、ホワイトハウスで行われた。主要テーマは核合意への復帰が焦点となっているイランや、パレスチナへの対応だった。パレスチナを巡る両者の隔たりは大きい。ベネット氏は元々、パレスチナの国家樹立に反対する立場だが、バイデン氏はイスラエル、パレスチナの2国家共存を持論としている。

 両者は記者発表で、イランの核保有を認めないことで一致したと表明。一方、パレスチナを巡っては、バイデン氏が「イスラエルとパレスチナの平和と繁栄を促進する方法を議論した」と述べるにとどまり、ベネット氏は一切言及しなかった。

 一方、ホワイトハウスの発表文には、異なる内容が記されている。バイデン氏は会談で、ベネット氏に対し「パレスチナ人の生活を改善し、経済発展の機会を増やすこと」や「緊張を高めたり、信頼構築を妨げたりする行為を控えること」を要請。その上で「2国家共存だけが、紛争を持続的な解決に導く唯一の道だ」と強調し、ベネット氏に和平に向けた行動を取るように促したという。

 なぜ二つの発表は異なっているのか。そこには両者の思惑が透けてみえる。イスラエルのメディアが生中継した記者発表では、ベネット氏はパレスチナについての発言を控える必要があった。ベネット政権は極右のベネット氏を含め、右派から左派、アラブ人政党まで8党が連立した政権だ。ネタニヤフ前政権を倒すための「寄り合い所帯」と言える。

 パレスチナ政策は各党で異なるため、ベネット氏の不用意な発言は政権内の反発を呼びかねなかった。これに対し、イラン政策を巡ってネタニヤフ氏と折り合いが悪かったバイデン氏は、ベネット氏との関係を強化するため、記者発表ではベネット氏に配慮した。一方で、発表文では、自身が所属する民主党の支持者やパレスチナ自治政府向けに和平交渉の重要性を強調する必要があったとみられる。

11年ぶりの極秘会談

 ベネット氏はバイデン氏の要請を受け、すぐに動いた。首脳会談の2日後、極秘裏にイスラエルのガンツ国防相とパレスチナ自治政府のアッバス議長が会談したのだ。会談は、現地メディアの報道で明るみに出た。イスラエルの閣僚とアッバス氏の会談は2010年以来、11年ぶりだという…

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三木幸治

エルサレム特派員

 2002年入社。水戸支局、東京社会部、中部報道センターなどに勤務した後、2016~20年にウィーン特派員。21年4月から現職。twitterは @KojiMIKI5