軽視され、線引きされてきた「黒い雨」の被爆者

森本真治・参院議員
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森本真治氏=須藤孝撮影
森本真治氏=須藤孝撮影

 「黒い雨」の被害者は原爆被害の象徴でありながら、長年にわたって救済されてこなかった。広島の原爆被害のなかでも、置き去りにされた最後の問題の一つだったと思う。

線引きで分けられた被爆者

 黒い雨による被害を巡り、原告の住民全員を被爆者と認めた広島高裁判決について国が上告を断念した。原告は国が定めた「健康診断特例区域」、いわゆる援護対象区域の外で黒い雨にあった人たちだ。

 この区域は戦後の気象台による調査で「大雨」が降ったとされた区域だが、行政区画が基準とされたため、集落を区切る小川などが境界線となった場合もある。その結果、家族や同級生、同じ集落の住民でも援護を受けられる人と受けられない人が出た。この「線引き」が長年問題になってきた。

軽視されてきた「黒い雨」

 そもそも健康診断特例区域という制度自体が差別的な措置だ。直接被爆した人や、あるいは原爆投下後に被爆地に入った入市被爆者は、政令が定めた範囲内にいたことが証明できればただちに被爆者と認められる。

 しかし、特例区域の場合は、黒い雨を浴びていても厚生労働省が定める11障害を伴う病気(脳出血や肝硬変、甲状腺機能低下症など)を患わなければ被爆者健康手帳を受け取ることはできない。他の被爆者に比べて高いハードルが設定されている。広島でこんな扱いを受けているのは黒い雨の被爆者以外にはない。言い換えるならば、黒い雨の被害は軽視されてきた。

 今回の訴訟の原告はその援護措置からも外された人たちだ。気象台の調査では「小雨」あるいは降雨域外とされたが、土砂降りだったと証言した人もいる。二重の意味で差別され、放置されてきた。

 今回の判決は黒い雨を浴びた人をそのまま被爆者として救済するもので、この差別を解消するものだ。特例区域についても「本来、被爆者として手帳を交付すべきだったにもかかわらず、あえて交付しなかった疑いが強い」と指摘し、従来の援護措置に疑問を呈した。「黒い雨を浴びた人をただちに被爆者と認めろ」という地元のまっとうな要求に応じた判決だったと思う。

線引きはできないもの

 黒い雨に限らず、被爆者の被害の線引きは本当はできないもののはずだ。どこまでを対象とするかは結局、政治が決めている。

 「科学的知見を根拠にした」と言うが、被爆の人体への影響が科学的に解明できているのかといえば、そんなことはない。結局は最初に政治の判断があり、後付けで「科学的知見」を根拠にしてきた歴史がある。

 線引きの10メートル外ならば被爆していない、ということがあるはずがない。事実としては境目などない。際限がないからここまで、と決めてきた歴史があることをふまえるべきだ。

 基本は経験をした人の声を大事にすることだ。地裁、高裁判決で示された判断の枠組みの通り、これまでの三つの降雨域を参考にしながら、住民の証言の信用性を吟味する方法をとるべきだ。まずは早急に、広島県と市が拡大を要望している地域を援護対象地域として確定すべきだ。

筋が通らない首相談話

 菅義偉首相は首相談話で判決について「これまでの被爆者援護制度の考え方と相いれない」と述べた。これは理解できない。…

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森本真治

参院議員

 1973年生まれ。広島市議を経て、2013年参院初当選。立憲民主党参院国対委員長代理。参院広島。当選2回。