ウェストエンドから

欧州の「ホームグロウンテロ」の盛衰。カギはタリバンか?

服部正法・欧州総局長
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パリ同時多発テロから5年を迎え、献花式に出席したジャン・カステックス首相(左から2人目)ら=パリ近郊のサンドニで2020年11月13日、AP
パリ同時多発テロから5年を迎え、献花式に出席したジャン・カステックス首相(左から2人目)ら=パリ近郊のサンドニで2020年11月13日、AP

 「9・11」と呼ばれる2001年の米同時多発テロ以降、欧米諸国では「ホームグロウンテロ」の嵐が吹き荒れた。国際テロ組織の指示を受けたり、感化されたりした「自国育ち(ホームグロウン)」の若者らが引き起こしたテロだ。

 イスラム過激派による欧州での大規模なテロの皮切りは、191人が死亡した04年3月のマドリードの列車同時爆破テロ。翌05年7月にロンドンで起きた地下鉄などでの同時爆破テロでは52人が死亡した。

 パリでは15年1月に風刺週刊紙「シャルリーエブド」の本社とユダヤ人向けスーパーが襲撃され17人が死亡し、11月の同時多発テロでは、劇場などで銃乱射や自爆があり130人が犠牲になった。その後も枚挙にいとまがなく、日本でも欧州での大規模テロのニュースを耳にし、「またか」と思った方も多いだろう。

 しかし最近、こうしたイスラム過激派による大規模テロ事件は欧州ではまったくと言っていいほど発生していない。一体なぜなのか。そして、イスラム主義組織タリバンがアフガニスタンを制圧したことは、ホームグロウンテロの発生動向に影響を与えるのだろうか。

未然に阻止されてきた多くのテロ計画

 ホームグロウンテロの嵐はとにかくすさまじかった。15年のパリでの二つの大規模テロ後も、16年3月にベルギー・ブリュッセルの欧州連合(EU)本部そばの地下鉄駅などで連続自爆テロが発生し32人が犠牲となり、7月には南仏ニースでトラックが観光客に突っ込み86人が死亡した。17年に入っても、5月に英マンチェスターのコンサート会場で自爆テロが発生し22人が死亡。8月にはスペイン・バルセロナ中心部などで車が暴走する事件があり、16人が犠牲となった。

 ユーロポール(欧州刑事警察機構)の資料からイスラム過激派によってEU域内で実行されたテロと、各国の治安当局によって阻止されたテロ計画の件数を見てみる。すると、明らかな変化が浮かび上がってきた。

 17年には実行が10件、阻止が11件だったが、18年には実行7件で阻止が16件、19年には実行3件で阻止が14件となった。20年には実行10件に対し、阻止が4件と傾向が異なるものの、少なくとも17~19年にかけてはかなりの割合でテロ計画が未然に防がれたと言えるようだ。

 また、英国の防諜(ぼうちょう)機関「情報局保安部」(MI5)のマッカラム長官は「9・11」から20年となる前日の21年9月10日、英BBCラジオの番組で、過去4年間に英国で31件のテロ計画を未然に防ぎ、多くがイスラム過激派によるものだったと述べた。

通信傍受などによる情報収集能力の深化

 相当数のテロ計画の実行を当局が阻止することができたとすると、その理由は何か。

 07年から21年8月までその任に当たったドケルコーブEUテロ対策調整官は21年7月、仏紙ルモンドのインタビューで、イスラム過激派組織ISは消滅していないとしながらも「国際協調の行動の結果、ISにはもはや欧州にテロリストを送り込む能力はなくなった」と、国際的な連携が欧州での大規模テロの阻止につながっているとの見方を示した。

 また、英王立防衛安全保障研究所(RUSI)の上級アソシエートフェローで、英国におけるホームグロウンテロの背景を詳述した著書もあるラファエロ・パントゥッチ氏は、近年の欧州における大規模過激派テロの減少について、私の取材に「セキュリティー能力の改善が主な理由。テロリストは(事前の)探知によって計画を実行するのが困難になった。欧州の治安当局は米国からのかなりの支援も得ながら、警戒システムを発展させた」と分析した。

 監視対象者・組織への盗聴などを通じた情報収集の深化や国をまたいだ情報共有が、各国のテロ阻止能力向上につながっていると考えられる。

 私がヨハネスブルク特派員時代(12~16年)にアフリカにおけるイスラム過激派の動向を集中的に取材していた当時も、西側治安当局によるイスラム過激派内部への盗聴活動の拡充を肌で感じたことがあった。

 アルジェリア南部イナメナス近郊で13年1月、天然ガス関連施設がイスラム過激派に襲撃され、人質になった日本人10人を含む40人が死亡した。この事件の首謀者と目されるモフタール・ベルモフタール容疑者はサハラ砂漠に潜伏してきた過激派指導者だが、事件後、米軍の空爆などによる死亡説がこれまで何度も流れた人物だ。

 だが、16年に私がある筋から聞いたのは、米仏の治安当局などがベルモフタール容疑者の生存を確認しており、確認の決め手は通信傍受によって得られた情報だった、との話だった。欧米のインテリジェンス機関のシギント(通信の傍受などを通じた諜報活動)能力の一端に触れたような気がしたものだ。

摘発されたNATO軍基地へのテロ計画

 このようなシギントが対イスラム過激派に対して奏功してきたとすると、その典型例とも言えるのが20年4月に発覚したドイツにある北大西洋条約機構(NATO)軍基地などに対するテロ計画だ。

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服部正法

欧州総局長

1970年生まれ。99年、毎日新聞入社。奈良支局、大阪社会部、大津支局などを経て、2012年4月~16年3月、ヨハネスブルク支局長、アフリカ特派員として49カ国を担当する。19年4月から現職。著書に「ジハード大陸:テロ最前線のアフリカを行く」(白水社)。